岩手県胆沢扇状地における休耕地の分布とその植生
阿部恵子
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1. はじめに
 現在,日本の農地では後継者不足を背景とする作業効率化のための大規模ほ場整備事業が進んでいる。一方,米の過剰生産にともなう生産調整も行われている。そのため各市町村では生産調整水田に補助金を交付するために,農家から申請のあった休耕地に限り確認調査を行っている。しかし,農村にはそれよりも広い面積の休耕地が存在する。
 本研究では農地の利用状況を調べることで休耕地の実態を把握し,休耕地の環境やそこに発達している植物群落を明らかにすることを目的とした。
2. 調査地
 岩手県南部に位置する胆沢扇状地(いさわせんじょうち)では,1600年ごろから開墾が始まり,仙台藩のこめどころとして古くから水田耕作が行われてきた。第二次世界大戦以後はさまざまな名目でほ場整備が続けられている。そして現在は区画を大きく作り変える再整備事業がおこなわれている。そこで昭和20年代から平成10年までの間に整備された地域の中から,整備年代の異なる9カ所に調査地を設定した。
3. 調査方法
(1)農地の利用状況調査
 農地を水田,畑,大豆畑,牧草地,乾性の休耕地,湿性の休耕地,レンゲソウやコスモスなどの景観形成植物が播成されている場所,不明の8種のカテゴリーに分類し,その分布を記録した。
(2)植生調査
 調査地ごとに8〜15カ所の休耕地(合計92カ所)に5×5mの方形枠を設置し,出現した植物の種名・優占度・草丈を測定した。
4. 結果と考察
a)補助対象地と実際の休耕地の比較
 農地の利用状況を調べた結果,実際には補助の対象よりも広い面積の休耕地が存在することを確認した。例えば,牧草地の転作として申請された場所でも,牧草以外の植物が侵入し優占している場合が多くみられ,必ずしも申請通りの維持管理が行われていないことが分かった。
b)農地の利用状況
 区画が大きく,形が整っていない農地は水田として利用される割合が高い。これに対して,悪い日照条件下にある農地や農業機械の入ることの出来ない区画の小さい農地は畑または休耕地となる割合が高くなる傾向が見られた。このことから,農地の利用状況には生産性や作業効率性の違いが大きく影響するものと考えられる。
c)地域間における農地の利用状況の比較
 各調査地の農地の利用状況を比較した結果,高台に位置し,稲作のほかに畜産を営む農家が多い調査地では牧草として利用されている割合が高かった。また,1ha規模の大きな区画の農地が広がる調査地では水田として利用されている割合が高かった。このことから,農地の利用状況は整備年代の違いよりはむしろ,立地環境や農業形態によって決定されるものと考えられる。
d)休耕地の植生
 植生調査の結果,54科229種の植物が確認された。以前は水田だったと考えられる湿性の休耕地ではイヌビエ,ホタルイ,タネツケバナはどが,乾性の休耕地ではイヌタデ,シロツメクサ,ヒメジョオン,メヒシバなどが高い頻度で出現した。このことから,休耕地の植生は人為的な管理の程度やその場所の形成,土湿によって決定され,放棄年数によって変化するものと考えられる。


Copyright (C) 岩手大学人文社会科学部 植物生態学研究室
初版:2002年12月15日 最終更新:2003年6月3日