花輪堤ノハナショウブ群落の保全に関する研究
伊藤詩麻
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1 はじめに
 天然記念物、花輪堤ノハナショウブ群落は、本州の代表的密生地として全国にさきがけ、昭和10年に国の天然記念物に指定された。しかし近年、花の数の減少が目立ち、天然記念物指定の取り消しの話がでるほどまでに保存管理上の問題が問われている。

 そこで本研究では、昭和41年から行われている群落内の区分調査法に基づきそれを実施し、正確な群落内におけるノハナショウブの分布や株数、茎高や花茎・実茎の本数の把握,堤内の他の植物相などを調査することによって、ノハナショウブの減少の成因を考察することを目指した。

2 調査地の概要と調査方法
 「花輪堤ノハナショウブ群落」は水田の潅漑用に築立され、花巻市の中心部から北方約5km、花巻空港から西方約700mに位置し、北上川河岸段丘面の金ヶ崎段丘上に開けた水面地帯にある。

 調査方法は、昭和41年から指定地内に調査のために設けられている区画を利用した。指定地の北110mをA・B・C・Dと4等分し、西東70mをさらに7等分して、各A1区、B2区・・・・等と区分し、計28区とその周囲を調査した。各区分における株数の調査は、区分ごとにロープを引き25m×10mの長方形上に区切り、その中で実施した。

3 結果と考察
 結果、A1〜D7区分で総株数2333本、開花数322本を確認できた。1990年には7194本の開花数を数えただけにその減少は顕著であるが、開花数自体は調査開始頃から変動が激しく、開花条件として気温や日照時間などの気象条件との関連は未だ認められていない。むしろ多年草であるノハナショウブは、開花数の変動そのものよりも株数の減少の方が深刻であり、株数の過去データは1969年で52000株,1970年で41800株であった。近年の株数の減少は、ススキやアズマザサなどノハナショウブと共生しにくい植物の侵入による指定地内の植生変化の問題も大きいが、それ以上に、保全工法実施により指定地内に設けられた給水・配水管の設置工事による影響や、池の拡大を抑えなかった管理の甘さなど、人災的な問題も深刻である。事実、A3〜D3エリアには給水・配水管が通った部分にノハナショウブが見られず、未だ裸地である部分もあった。池も30年前と比較すると20mほど指定地に入り込んでおり、湿地となったA5〜D6エリアにはノハナショウブの減少が激しく、全体的な分布も、池から後退するように広がっている。
・ノハナショウブ(アヤメ科)
 山野の草原や湿原にはえる多年草。花期は6−7月、高さ40−80cmの花茎が立つ。頂部に数個の苞ができ、その中から数個の赤紫色、径約10cmの花を開く。東亜に広く分布。

Copyright (C) 岩手大学人文社会科学部 植物生態学研究室
初版:2002年12月25日 最終更新:2003年6月3日