岩手県における植物の分布―岩手県植物誌のデータベース化―
栃木絵里衣
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 「岩手県植物誌」は岩手植物の会によって1970年に発行された地方植物誌で、岩手県内の植物を網羅的に扱った唯一のものである。本書では岩手県に生育する全ての植物に関して、その分布地が市町村・地区・山岳単位で記され、植物ごとの県内における分布を把握することができる。ここでは代表的な植物を5つの分布型(ここでは要素と呼ぶ)に分け、さらに固有種、隔離分布種、北限種などの7つに細分し、岩手県の植物地理学的考察を行っている。
目的
 本研究は、「岩手県植物誌」を基に、1970年時点での岩手県に生育する植物の分布をデータベース化することにある。さらに、これを利用する際の問題点を明らかにする。
方法
「岩手県植物誌」で記されている植物ごとに、分布する市町村あるいは山岳をデータとするデータベースを作成した。入力したデータには1970年当時の市町村区分をそのまま使用した。
結果と考察
 「岩手県植物誌」から入力したデータは23456点で,双子葉植物1633種、単子葉植物700種,シダ植物135種,裸子植物81種で、全1919種であった。平均出現種数は、市町村(62)別では283.4種、山岳(119)別では58.1種で、その種構成には大きな違いが認められた。市町村別による出現種数は多い順に盛岡市936種、釜石市894種、陸前高田市787種、少ない順に室根村3種、千厩町9種、前沢町11種であった。山岳別による出現種数は多い順に五葉山531種、早池峰山444種、八幡平415種、姫神山408種、少ないものは阿部舘山1種であった。また、植物ごとの出現頻度は多い順にヤマブドウ46市町村、ミヤマカンスゲ24市町村22山岳、イヌコリヤナギ39市町村5山岳であった。それに対して1市町村あるいは1山岳にしか分布しない植物はアサギリソウ、ハヤチネウスユキソウなどの264種(全種数の13.8%)であった。
 しかし、このデータベースには次の問題点がある。
  @分布調査が全県を網羅しているか
  A分布した場所を正しく示しているか
  B植物が正しく同定されているのか
  Cデータ入力の際に誤入力がなかったか
 @について、出現種数が多い場所と少ない場所が極端であり、調査不十分な地域の存在がうかがえ、さらなる調査が必要である。Bについて、標本が存在している場合には再検討が可能であるが,標本がない場合には再調査・標本作成が必要である。Cについて、誤入力のないような方法を用いることが必要である。
 以上のような解決方法以外に,今回のような既存の資料を利用したデータベース化における最大の問題はAである。異なる基準の地名(例:早池峰山,川井村)を利用することにより、場所を特定することが出来なかった.そのため,「岩手県植物誌」で示されている岩手県の植物地理学的考察を検討することはできなかった.

Copyright (C) 岩手大学人文社会科学部 植物生態学研究室
初版:2002年12月25日 最終更新:2003年6月3日