毛無森におけるブナ・ミズナラ林の落葉落枝量
中野 洋亮
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はじめに
 森林生態系を把握するために基礎的な情報のひとつとして,リター・フォール量がある.
 本研究では,リター・フォール量の中でも特に大きな部分を占める落葉落枝量について,日本の冷温帯落葉広葉樹林の代表としてブナ・ミズナラ林において調査を行った.
調査地と調査方法
 調査は岩手県盛岡市南東部にある毛無森で行った.毛無森(海抜1427m)は早池峰山塊の西端にあり,原生的な森林が広がり,早池峰山周辺森林生態系保護地域に属している.毛無森の海抜808m付近のブナとミズナラが優占する林分に調査区を設けた.調査区は100m×70m(面積0.71ha)で,69個のリター・トラップ(受口0.5m2)を系統的に設置した.調査は,定期的(2〜4週間ごと)にリター・トラップ内の落葉落枝を回収するリター調査と林分構造を明らかにする毎木調査であった.リター調査では回収された落葉落枝をブナの葉,ミズナラの葉,そのほかの樹種の葉,枝に分け,それぞれの乾燥重量を測った.毎木調査では胸高直径(DBH)2.0cm以上の幹について種名とDBH,DBH4.0cm以上の幹は位置も記録した.
結果・考察
 毎木調査の結果,調査区にはDBH2.0cm以上の幹が25種880本あった.幹数が多かった樹種はハウチワカエデ274本,ブナ269本,オオカメノキ93本,ミズナラ45本であった.胸高断面積合計(BA)では,ブナ(52.5%)とミズナラ(43.7%)が圧倒的に大きく,そのほかの樹種(3.8%)は小さかった.
 リター調査の結果,この林分の年間落葉落枝量は2610.83kg/haで,落葉量は1842.13kg/ha(70.56%),落枝量は768.70kg/ha(29.44%)であった.落葉量のうち,ブナは1147.69kg/ha(62.30%)で最も多く,ミズナラは518.70kg/ha(28.15%),そのほかの樹種は175.83kg/ha(9.54%)であった.落葉量の月変動ではブナは10月下旬,ミズナラは11月上旬に最大値を示した.両種とも連続に落葉するのではなく,秋季の短期間に集中する落葉様式であった.一方,落枝量は一定の周期性はみられず,大風や大雨などの気象的な要因が大きく関与していた.したがって,落葉と落枝の季節的変動は生物的要因と気象的要因が複合されたものといえる.
 なお,BA単位面積あたりの葉量ではブナがミズナラの1.84倍あり,1本あたりの葉量(葉量の粗密)に差があることが示唆された.
まとめ
 落葉は季節的な周期性があるのに対して,落枝は唐突的な気象に左右されることがわかった.また,同じ落葉樹でもブナとミズナラでは落葉時期や単位面積あたりの葉量に違いが認められた.これらが複合されることによって多種からなる森林生態系が成立していることが示された.


Copyright (C) 岩手大学人文社会科学部 植物生態学研究室
初版:2002年12月25日 最終更新:2007年2月20日