「法(のり)面」とは、土木工事等の人為に伴って生じた斜面であり、自然地形を切り取った後の斜面と、盛り土による斜面の二つのタイプがある。新しい法面は人工的につくられたため土壌構造を失っており、一般に植物にはみられず、侵入にも長い時間を要するという特徴がある。
法面の安定性を高め、また景観保全のために、人工的に植物を導入する緑化工の技術が開発されてきた。緑化工が施された法面において植物の侵入の状態を観察し、法面の保全について考えることが本研究の目的である。 調査は盛岡市の松園団地(昭和45年6月〜昭和51年6月に造成)と、湯沢団地(昭和52年3月〜昭和54年12月に造成)の2カ所でおこなった。 調査方法として、平成7年9月〜平成8年9月まで、調査地の道路法面に出現する植物の標本を作成し、それと並行してコドラート法(40カ所)とベルト・トランゼクト法(15カ所)により群落構造を調査した。 調査地に出現した種数は、シダ植物3科3種、草本植物37科134種、木本植物23科54種で合計58科191種であった。キク科植物は30種で最も多く、ついでイネ科植物25種、マメ科植物18種の順に多くみられた。キク科植物が多い理由として種子に冠毛があり、風散布のものが多種含まれていたためと考えられる。イネ科植物やマメ科植物が多いのは、緑化工に使用される種類が多種含まれているためである。マメ科植物には、やせた土壌を肥沃化する機能を持つ種が多い。なお、帰化植物は8科27種であった。 優占種により、6タイプの群落(イネ・マメ科群落、ススキ群落、コゴメウツギ群落、アカマツ群落、メドハギ群落、ニセアカシア群落)が区分できた。個々の群落をいくつかの視点から検討した。 平均出現種数は、アカマツ群落(8.2種)が最も多く、ニセアカシア群落(4.3種)が最も少なかった。帰化率はイネ・マメ科群落(57.1%)がきわめて高く、ススキ群落(5.8%)やメドハギ群落(0%)が低かった。 休眠型(Raunkiaer、1934)による分類を参照することによって、草本から森林への進行の度合いが推測できる。イネ・マメ科群落は一年草(Th)、半地中植物(H)が多いことから、遷移の初期の状態であるといえる。ススキ群落、アカマツ群落、ニセアカシア群落は中型・大型地上植物(MM)が含まれることから、より遷移が進んだ群落であると言える。
これらのことから、法面の緑化工後の植生遷移は次のように予測できる。まず、緑化工に使用されたイネ・マメ科植物が成長し、初めは帰化植物が多く侵入し、土壌が形成されていくとともに在来種も多く侵入し、ススキ群落、コゴメウツギ群落、メドハギ群落に移行する。さらに、ニセアカシア群落やアカマツ群落に移行すると考えられる。アカマツ群落にはミズナラ、コナラなどの多くの木本植物もみられることから、さらに進んだ他の群落に移行する場合もあると考えられる。 |