飯岡山の植物相と植生の状況とその保全について
李 貴林
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 飯岡山は盛岡市市街から南西約10kmの地区に位置する海抜358mの山である。この山から眺望はすばらしく、盛岡市街が一望できる。この山の山麓には秋葉神社が祭られ、近郷の人々の信仰の対象となっている。そのため、山全体が保護され、自然が残っている。しかし、飯岡山の生物に関する研究は、ほとんどおこなわれていない状況にある。そこで、今回、飯岡山の植物相と植生の現状を明らかにし、今後どのように保護すべきなのかを検討した。
 調査は植生と植物相に関しておこなった。植生調査は任意の31カ所に方形区を設置し、Braun-Blanquet(1964)の総合判定法による憂占度によって評価した。植物相の調査は採集をおこない、その標本を同定した。調査期間は1995年9月1日から1996年10月31日であった。
 今回の調査の結果、次のようなことがわかった。
 飯岡山にはシダ植物5科10種、裸子植物4科5種、被子植物75科281種の合計84科296種が生育していることを確認した。また、この地域にはアカマツ林(アカマツ−オオバクロモジ群落、アカマツ−ヤマツツジ群落、アカマツ−チマキザサ群落)、スギ群落、カラマツ群落、コナラ・ミズナラ群落、コナラ低木群落の7群落がみられ、次のような特徴が見られた。

アカマツ−オオバクロモジ群落:南西斜面を主体に発達している。高木層は20〜30m、胸高直径30〜45cmのアカマツによって構成され、草本層ではオオバクロモジが優先している。
アカマツ−ヤマツツジ群落:母岩が露出し、土壌が浅く、乾燥しやすい場所(傾斜20〜30°)にみられる。ここでは耐乾性のツツジ科植物が豊富である。
アカマツ−チマキザサ群落:東側の狭い範囲に見られる。草本層にチマキザサが密生する。
スギ群落:北側のやや急峻な斜面(傾斜28〜30°)に発達する。草本層ではマイヅルソウ、オシダ、コクサギなどの陰性植物が点生する。 カラマツ群落:北斜面の湿性地にみられる。草本層にチヂミザサ、キタコブシが頻繁に出現する。
コナラ・ミズナラ群落:緩やかな斜面に広がっている。草本層にオオカメノキなどの落葉広葉樹がよくみられる。
コナラ低木群落:傾斜30〜32°の急峻な南斜面にモザイク状にみられる。伐採後の経年数によって、様々な植物が侵入するため、不安定な林相を示す。

 飯岡山は、特別な高山ではないが、盛岡市に近いため、市民の娯楽やハイキングなどに利用されている。一方で、今回の調査の結果、飯岡山には市街地に近いわりに植物相や植生的にはひとつのまとまりが認められた。このような状態を将来的に残していくためには、緑地保全地区、風致地区等の指定をおこない、法的に保全を図ることが望まれる。


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初版:2002年12月25日 最終更新:2003年6月3日