相観による盛岡市の植生
今野尚美
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1.はじめに
 植生は地域を覆う植物の集合体のことであり、植生図は植生単位の広がり(相観)を具体的に示したものである。植生はその地域の地形、自然環境、人間活動などの相互作用によって形成され、植生図によって自然環境の空間的は位置が明らかになり、隣接する分野の研究(景観生態学)や環境計画(都市計画など)の基礎的データを提供する。このような研究や計画には大縮尺の植生図が必要であるが、一般に知られている植生図は1970年代に作成された縮尺5万分の1のものである。そこで今回は空中写真を用いて、より縮尺の大きい詳細な植生図を作成した。
2.調査地及び方法
(1)調査地
 研究対象は盛岡市全域(東西37.1km、南北23.9km、面積489.15km2)とした。
 盛岡市は岩手県のほぼ中央に位置し、北上川が中央を貫いて流れている。北上川の西部は北上川と雫石川によって作られた沖積平野であるのに対し、東部は起伏の多い丘陵地となっている。最高地点は最東部の毛無森(海抜1427m)である。
(2)方法
 今回使用した空中写真は、1984年と1985年に撮影された183枚である。その空中写真を立体視し、植生については特に樹冠の大きさ、形、模様、濃淡、肌理などに注目し、その要素をいくつか組み合わせることによって判読し、その結果を2万5千分の1の地形図に図示した。写真判読の正確さを増すために随時現地での確認作業も行った。  また、毛無山に連なる山(海抜1310m)から市役所(海抜126m)を通過する東西基線、市役所と赤林山(海抜855mのピーク)とを結ぶ南北基線を引き、基線に沿う植生断面図を作成した。
3.結果および考察
(1)植生図とユニット
 空中写真を判読した結果、住宅地や耕地などの土地利用と植生を組み合わせて28種類のユニット(単位)が得られた。なお、ブナ林、ミズナラ林、コナラ林、アカマツ林、カラマツ林、スギ林については低木林と高木林というように生育状況も考慮に入れた。  植生図に記載できたユニットの最小面積は625m2(25m×25m)であった。縮尺5万分の1の植生図には反映されない多くのユニットも示すことが出来た。
(2)盛岡市の植生
 盛岡市の植生状況は、西部では水田や住宅地の広がり、東部ではコナラ林、ミズナラ林、ブナ林、ダケカンバ林が東方に向かうごとに出現し、ヒノキアスナロ林、アオモリトドマツ林は毛無山付近にのみ見られた。
 植生を標高によって区別すると、海抜125m〜200mでは水田、畑、住宅地など、海抜200m〜500mはアカマツ林、カラマツ林、スギ林の植生、海抜500m〜1000mではミズナラ林、ブナ林、海抜1000m〜1310mではヒノキアスナロ林、アオモリトドマツ林となっていた。盛岡市の地形は東方ほど標高が高く、それにつれて自然度の高い植生へと移り変わっていた。
4.まとめ
 植生図の作成において、今回のように広域を調査対象とする場合、空中写真は非常に有効であった。空中写真を判別することによって土地利用や植生、さらにその変遷を追うことで人間活動が自然環境にどのような影響を与えたのかを明らかにすることが可能である。また、植生ユニットの分布パターン、面積と形との関係などを分析し、地域景観を定性的・定量的に把握する研究が進んでいる。さらに地域住民の意識や意向のアンケート調査などを取り入れることによって景観の総合評価を与えることが可能となる。


Copyright (C) 岩手大学人文社会科学部 植物生態学研究室
初版:2002年12月25日 最終更新:2003年6月3日