人文社会科学部研究室探訪●Part3(vol.1)page1

研究室探訪 vol.01
「人間が自然と関わり形成してきた環境文化を考察し、環境問題の根っこにある自然観・人間観を探る」 教授 開 龍美
環境科学課程(環境科学コース担当)【環境文化論】

Profile
HIRAKI TATSUMI
上智大学文学部英文学科(1977年) 上智大学文学部哲学科(1980年) 上智大学哲学研究科哲学専攻(1985年) 文学修士


環境に関する研究に携わるようになられたきっかけを教えてください


「非常に哲学的で、人間と自然との問題を掘り下げていくものがディープ・エコロジーという環境思想。自分が抱いていた問題意識と共鳴するものを直観しました」

 私の研究分野は環境哲学ですが、最初に学んでいたことは全くかけ離れたものでした。高校生の頃から話しますと、当時は英語と文学が好きで将来は英語の教員になろうと思っていたんです。シンプルな頭の構造をしていたので(笑い)大学は文学部英文学科に進みました。やがて卒業論文のため本を読み始めているうちに、いわゆる思想や哲学的なものに傾斜していったんですね。就職かさらに研究を進めるか悩んでいる時、デカルトの『方法序説』を読みました。そこには良識を持った人間ならば必ず真理にたどり着くひとつの「方法」が示されていました。その時私は、哲学の確実な歩みと哲学が学ぶに値するものであるという確信を得ました。
 それから学部の哲学科に入り直してカント、大学院の哲学研究科でハイデガーというようにドイツ哲学の本流を学びました。研究を進めるうちにハイデガー哲学の中に欠落している部分、あるいはハイデガー自身がそれと気づき晩年取り組んだ人間と空間・場所という問題に関心を移していったんです。そこで出会ったのが、ディープ・エコロジーという環境思想です。1970年代の初頭は環境保護の思想が大転回した時期で、その時にラディカルな思想がワーと出てきました。その一つがディープ・エコロジーでした。非常に哲学的で、人間と自然との問題を掘り下げていくものなんです。自分が抱いていた問題意識と共鳴するものを直観し、一気に環境思想、環境哲学の方に進みました。そのディープ・エコロジー思想を積極的に紹介・論評したこと(※)が縁で環境科学課程の環境文化論研究室を担当することになりました。

※アルネ・ネス『ディープ・エコロジーとは何か』訳・開龍美、斎藤直輔 文化書房博文社 1997

環境科学課程の全体像を教えてください


「専門性と総合性を兼備する。人文社会学部の基本的な理念としてはそういう人材養成を目指しています」

 岩手大学には農学部に共生環境課程、工学部に社会環境工学科があります。それに対して人文社会科学部の環境科学課程では、複雑な環境問題に対応できる人材を文理融合の教育をもって養成しています。では、環境科学課程ではなぜ文理融合なのでしょうか。
 最近、気候変動とか地球温暖化がよく話題にのぼります。その際、二酸化炭素の排出量が大きな影響を及ぼすと言われるのですが、私のような文系的な人間だと「それはそういうものだ」と分かった気になって、なぜ二酸化炭素が温室効果ガスなのか、そのメカニズムについては自然科学の専門家に任せ、それ以上自分で考えようとしない傾向があります。しかし振り返って見ると、そもそも地球環境問題は自分の得意な狭い分野、部分のことしか考えないで、それ以外の地球、つまり全体のことをなおざりにしてきた私たち現代人に対する当然の報いなのかもしれません。その点からすると、今求められているのは、環境問題に対して全体的な視野をもった人間です。つまり、実に複雑な環境問題の原因をまず科学の観点から捉え、その発生の社会的メカニズムに遡り認識し、対策の立案と行動までをトータルにこなせる能力(=環境リテラシー)をもった人材(=環境人材)です。私たち環境科学課程では、このような人材を文理融合のカリキュラムをもって養成しているのです。

環境文化論ではどのようなことを学ぶのでしょうか


「人間と自然の関わりの中で育まれてきたもの、つまり文明自体が環境文化と言えます」

 人間はほかの生物や、動物と同じように環境に適応して生きてきました。人間が自然に働きかけて自然が変わり、それが今度は人間に作用、影響を及ぼして人間が変わり、このような相互関係の中で文化や文明が構築されてきたわけです。そういった意味では、人間と自然環境のなかで育まれてきた文明自体が環境文化と言えます。したがって環境文化は、さまざまな時代や地域にたくさんあることになります。こうした多様な環境文化の構成、その根っこにある自然観や人間観、そして価値観を研究して、現代社会や現代文明に対し、それとは異なる別の社会、文明のあり方、人間の生き方があることに気づかせ、一つの示唆、処方箋を提供しようとするのが「環境文化論」です。
 私の研究室に所属して特別研究(卒業研究)を手がける学生には、ネイティブアメリカンの自然観を研究する学生もいれば、他方では、日本のサクラの文化や歌人の西行の美的自然観を研究する学生もいて、幅がありバラエティに富んでいますね。
 環境科学課程には現在スタッフが15人います。1学年に学生は30人ですから、卒業研究の指導では学生1人に教員1人という形も多くなり、細かな対応も可能になっています。私自身は1万人ぐらいの学生が居るような私立大学で学んだので、たとえゼミとはいえこのようなことはありえないことで(笑い)、赴任当初は私自身少なからず驚きました。さらには岩手大学全体が少人数教育を実現していると言えるでしょう。