人文社会科学部研究室探訪●Part5(vol.1)page1

研究室探訪 vol.01
個人的側面と社会的側面から「人間行動」を分析 多角的な視点でその解明に迫る 教授 山口 浩
人間科学課程(行動科学コース担当)【社会科学】

Profile
YAMAGUCHI Hiroshi
東北大学文学部(1978年) 東北大学文学研究科(1984年) 文学修士


人間科学課程の特色を教えてください


行動科学では、個人の心理や社会の中の人間行動といった幅広い分野に焦点を当てていきます

 人間科学課程では「人間性の解明」を教育・研究の目的としており、人間情報科学と行動科学の2つの視点から迫っていきます。人間情報科学では、人間=(イコール)言語処理をする存在、倫理的な問題に取り組む存在といった基礎を踏まえつつ、哲学・倫理学・言語学などの人間学と情報科学の側面から「人間存在」について考えていきます。一方、行動科学では「人間行動」に焦点を当て、心理学や社会心理学、社会学に加え、スポーツ社会学や行動地理学などの観点から人間行動の解明を目指します。単に心理系や社会系のみを学ぶのではなく、その両方を踏まえた上で人間を理解しようとする学際的な領域といえますね。

行動科学コースの面白さはどこにあると思われますか


体の反応を見ることで、真の気持ちの部分に迫ることができるんです

 心理学だけ、あるいは社会学だけを学べるコースというのはあちこちの大学にありますが、その両方を学べるコースは全国的にも珍しいと思います。ですから、心理学実験もできるし社会調査もできる、また社会にかかわる文献研究もできるという面白さがあります。また、3年次には「特殊実験調査研究」といって自分の研究テーマに取り組むミニ卒論のようなものがあります。心理系と社会系の両方を経験する必要があり、また同級生の発表についての質疑も行うので、各系を自由に行ったり来たりできる、そういった面白さもありますね。

先生が専門とされている実験心理学や臨床心理学について教えてください


バイオフィードバックによって体に対するセルフコントロールや人間の能力開発につなげていけるのではないかと考えます

 心理学が科学的分野になったのが1879年だとされます。それは、ヴントが心理学実験室を作り、いわゆる実験心理学を軌道に乗せた年になります。ヴント以来、心理学の基礎である実験心理学は、人間にかかわる共通の法則を見つけていこうとする領域で、今日では感覚・知覚心理学、認知心理学、学習心理学、類縁の心理生理学などに細分化されています。一方、臨床心理学は基礎というより応用になるでしょうか。集団の平均値ではなく個人の独自性を理解しようという領域になります。
基礎と応用を結びつけてこそ心理学が役立ちますので、法則を解明しつつ個人理解に生かすこと?これが最大のテーマになっていますね。

多くの心理学会に携わっておられますが、先生が心理学を学ぼうと思われたきっかけは何だったのでしょう

 父親が炭鉱関係の仕事をしており、大きな事故を起こさないためには濃密な人間関係を築くことや分かり合うことが重要であると(母を通して)教わりました。実際に父親が働いている姿・行動を見て、人間関係の築き方や人間の心に興味を持ち、心理学を学ぼうと思ったのが最初でしたね。
 またタイトルは忘れましたが、人間の深層心理が怪物になって暴れるという映画を見て、人間の心には自分では気づかない「無意識」という心の部分があることを知りました。そこで人間の心を解明するためにはやはり心理学が必要なんだなと。
 さらに若いころは超能力ブームで、人間の秘めたる力を解明し、それが発揮できれば面白いだろうなと思い、超心理学にも興味を持ったんですよ。しかし、心身の対応をしっかり押さえていないと「えせ科学」になってしまうと思い、心理生理学を学ぼうと考えました。

研究対象とされている「PILテストによる人生の実存的側面」や「バイオフィードバック訓練及びセルフコントロール」とはどういった内容になるのでしょう

 PILテストは「Purpose-in-Life test」、つまり人生の目的を本人がどの程度持っていると思っているのかを測る心理検査です。砕いて言えば、人生の中でいかに虚しさを感じずに生活しているのか、どれだけ充実感を感じて生きているのか、その程度を測定します。これは精神医学者・フランクル,V.E.の思想に基づいたテストで、その思想とは「人間の意志は自由である」「人間には意味を求める意志がある」「いかなる状況にあっても人生の中に意味を見いだすことができる」という3つの柱で成り立っています。このテストをアメリカから持ち帰った岩手大学名誉教授・佐藤文子先生を中心とし、日本でも使えることを目的に標準化の作業に取り組みました。現在はこのテストを使って人間の空虚感や生きがいにどう迫っていけるのか、あるいは心理療法の中でどう生かしていけるのかなどに関心を持っています。
 一方バイオフィードバックとは普段気づかない生体信号を知覚できる形で本人へフィードバックし、最終的に生体信号を自らコントロールできるようにしようとする手法を言います。例えば、筋肉に力を入れたり肘を曲げるなどの運動神経系反応は意識的にコントロールできますが、心臓や脳波などは直接意識的にコントロールできませんよね。この心拍や血圧、脳波などを測定し、知覚できる形にしてフィードバックしてあげるんです。フィードバック情報を基に訓練することで、今までコントロールできなかった体の反応を意図的にコントロールすることが可能になると考えています。