人文社会科学部研究室探訪●Part5(vol.2)page1

研究室探訪 vol.02
経済学の目的は経済の基本的関連を体系や構造として示すこと経済学が社会に目を向けるきっかけになれば 准教授 杭田 俊之
法学・経済課程(経済コース担当)【社会科学】

Profile
KUITA Toshiyuki
京都大学経済学部経済学科(1989年) 京都大学経済学研究科理論経済学・経済史学(1996年) 経済学修士


先生が考える法学・経済課程の魅力は何ですか


経済学は決まった入り口のない学問分野ですから、少しずつ出会った問題に取り組み、理解していけばよいと思います

 人文社会科学部は2000年に改組し、より法学と経済の連携を深めるべく現在の形になっています。従来の経済学部との一番の違いは、学生が入り口で法律と経済という二つの分野を同じウエートで取り組めること。法学部や経済学部など単体の学部ではどうしても専門の発想をはじめに決めてしまうことになりますが、岩手大学ではそこが社会科学という「くくり」になっているため、はじめのところの間口が広いんですね。同じ社会を対象としながらも複数の視点からアプローチできる。しかしながら専門追求ができないかというとそうではなく、各領域の知識を深めようと、この課程では選択科目となっている卒業論文に自発的に取り組む学生が大勢いますよ。

経済コースの特徴を教えてください

 経済学は決まった入り口のない学問ですので、どこから学べばいいか分からないということが学生の側にあります。私は理論経済学を担当していて、もちろんいわゆる原理や理論を学んでから具体的な事象を学ぶのが王道だと考えていますが、実際に世の中で起こっている事柄を学生自身が知らなければ経済学のリアリティーは伝わらないと考えたわけです。今も、政治経済学と理論経済学を1年次で取るようカリキュラムを組んでいますが、同時に経営学や社会保障論などの受講によって、経済事象についての知識をある程度身につけてもらう機会を設けています。その他の特徴としては、ゼミ活動の充実につながることを意識した授業編成になっているということ。主に2年次になるのですが、経済学基礎演習や時事経済論、合宿演習などを受けてもらい、議論、レポート作成、また研究テーマのあぶり出しなどを通し各自で(できれば卒業)論文が書けるように授業を組んでいます。また節目ごとに、2・3・4年次にそれぞれ研究発表の機会を設けています。

先生が経済学を学ぼうと思われたきっかけを教えてください


社会の複雑さに圧倒されている状態から、社会と向き合うために「腰が据わった状態」への橋渡しができれば

 私は一浪したのですが、受験勉強をしていく中でも評論や論説を読むのがとても好きだったんです。和辻哲郎とか林達夫とか…。勉強しながら世の中のことも見ているようですごく楽しかったんですけれども、同時に受験勉強から垣間見る社会はこんなにも狭いものなのかと。そのとき大塚久雄の『社会科学における人間』という本を読み、社会は変化していくものなんだ、ということを実感しました。そこから現実の社会において変化が生じるところはどこなんだろうと突き止めたくなったんです。

学生たちにより分かりやすく教えるために、授業等で工夫されていることはどのようなことですか

 私が担当している理論経済学は、マクロ経済学を通して社会の大きな枠組みを知ってもらうことが主な目的です。理論は煮詰めて骨組みにしたものですので、どうしてもリアリティーに欠けて見えるといった問題が出てきます。ですから、金融・財政、雇用のことなど新聞記事を使って時事的な問題からライブ感を取り入れるようにしています。偶然なんでしょうけど、記事の素材と授業進度のタイミングが合うことが多いんですよ。今回の震災は特殊で一様には扱えなかったんですが、その時々で起こっていることをマクロ、つまり全体として見ていきますので何かしらマッチしたものが出てくるんですね。そうすると十人十色で、学生によって企業や金融、雇用など、興味ある内容に出会うわけです。興味を感じれば関心が持続し、勉強も持続する。経済学の面白さは後からやってきますので、そこのところへの橋渡しができればと思っています。あとは、教科書の内容をできるだけ図式化し、その思考プロセスを伝えながら黒板で説明するという方法をとっています。以前はパワーポイントも使用したんですが、思考の結果、すなわち「答え」だけが注目され、パネルもすぐに切り替わってしまうので記憶に残らないんですね。黒板だと完成図ができるまでに物事の成り立ちなども順を追って説明できますし。また授業の終わりには、その日の授業内容のまとめにふさわしい問いを作り、文章で答えてもらうようにしています。やはり書くことで理解度もかなり違ってきますよ。

先生は進化経済学を専門とされていますが、これはどのような学問ですか


自分の内実をレベルアップさせるために授業に取り組んでほしい。そのためには自分への動機づけを意識することが大切

 1980年代はアメリカ流の経済学が影響を強めていた時代でした。主流の経済学というのは、均衡価格の決定という分析が典型であったように、物事は均衡に落ち着くといった議論になります。ところが、私が入った経済学部には異端の議論をされる先生が大勢いらして、均衡よりもむしろ「変化」という扱いにくいテーマを主題にしている点がすごく魅力的でした。
 続く1990年代の動きとしては、それまで異端の経済学とされていた進化経済学でしたが研究者の間で学問的アイデンティティーの確立に向けた取り組みが始まったんです。そのキーワードの一つに「進化」があります。市場は競争の場ですから、進化論でいう生存競争や淘汰といったイメージが経済学の中にももともとあったと言ってもよいでしょう。進化というフレーズは何人もの学者が使っていて、例えばマーシャルやシュンペーター、ヴェブレンなどは100年以上も前から議論していたといえます。進化経済学は簡単に言うと次の3点にまとめられます。まず、社会の変化は時間の中で推移するものですが、それは必ずしも進歩ではないということ。変化の結果は良いとも悪いとも言えないんです。2点目は、咲いた花を再び蕾に戻せないように社会の変化は一方向、つまり不可逆であるということ。均衡の議論のようにもとに戻りうるような状況を考える可逆性に対しそれを否定したということになります。3点目は発展の中で変異が生じるということ。花や家畜に品種改良があるように、経済にも新しい製品・技術の出現により社会にインパクトを与えるという変異があるんです。新しいことは予測不能ですのでどうしても扱いづらいものなんですが、そういうものが現れることで社会が変わってきたのも事実で。そうした社会の動きを見て考えていくのがこの分野の特徴かなと思いますね。