人文社会科学部研究室探訪●Part5(vol.2)page2

研究室探訪 vol.02
経済学の目的は経済の基本的関連を体系や構造として示すこと経済学が社会に目を向けるきっかけになれば 准教授 杭田 俊之
法学・経済課程(経済コース担当)【社会科学】

Profile
KUITA Toshiyuki
京都大学経済学部経済学科(1989年) 京都大学経済学研究科理論経済学・経済史学(1996年) 経済学修士


研究されているテーマおよびその内容について教えてください


マクロ経済学では、どんな個別問題でも経済全体の動きの中の一部分として問題を位置づけることが重要なんです

 私は「市場経済システムの制度進化」について研究しています。以前は、市場といえば需要と供給が出会う均衡の場であって制度ではないという扱いだったのですが、オーストリア学派のフリードリヒ・ハイエクは市場を制度、それも社会を一つにまとめる心臓部と捉えました。一般に秩序や制度というのは、人為的に人間の意図によって作られたものと自然にできあがったものとに分けられてきたのですが、市場はそのどちらでもないというのがハイエクの考えなのです。そのような第三の秩序を自生的秩序と呼びます。これは意図的な設計によらないけれど人間の行動の結果生じた制度の成立や変化を考えるときに重要になってきます。例えば道路には左側通行と右側通行がありますが、どちらを走ってもいいとなったら事故ばかり起きて大変なことになりますよね。しかし、人々の相互行為から右か左のいずれかに収束が起こり、ルール化される。このように成立してくるのが自生的秩序なんです。
 また市場を考える際に別の鍵となるのが株式会社です。従来経済学では生産は生産、金融は金融というように二分法で論じられてきました。ところが企業を株式会社として扱うことで、この二つの面が架橋されるわけです。例えば金融界のマネーゲームという現象も株式会社の進化を踏まえなければ本当のところは理解できませんし、昨今の世界的な金融問題も金融自由化の帰結というだけでは不十分で、その基盤には企業金融と金融機関・金融制度の発展が関係しています。株式会社の発展を進化経済理論の観点から検討し、企業金融の発展が経済の金融化を導いてきたことを説明できればと思っています。

ゼミはどのように進められているのでしょう

 ゼミではマクロ経済学を中心に、景気や財政・金融、雇用といった経済諸問題をマクロ的視点から見ています。3年次前期にはスティグリッツの『マクロ経済学』、後期には景気や金融などの具体的な経済問題を検討しながら理解を深め、個人テーマを設定していきます。過去のテーマとしては、インフレターゲティングや貨幣数量説、日本の経済政策などさまざまな内容に取り組んでもらっていますよ。また_私はケインズの『雇用、利子および貨幣の一般理論』という研究書がやはり今の市場経済や資本主義の問題を非常によく捉えたテキストだと思っています。ですから、ケインズの『一般理論』に挑戦してみたいという学生が現れることを密かに願っているんです(笑)。

経済学を学ぶ上で学生に望まれることは何ですか


経済現象に向き合うための「社会を見る視点」を構築してくれるところが経済学の魅力ではないでしょうか

 常識と訳されるコモン・センスという言葉があるのですが、社会と向き合う際に物事を全体で見て、バランスのとれた判断ができる素養としてコモン・センスを身につけてもらえればと思います。社会は変化していくものですから、過去を踏まえて常に物事を新たに判断していく必要があります。ですから、何かが分かったからそれでいいというのはありえないと思うんです。そのような世の中とバランスを持って向き合い、社会についての自分なりの見立てをつけてほしいなと。それがコモン・センスなんです。実はこの言葉は大学時代にケインズ研究者の伊東光晴先生が非常に大事だとおっしゃっていた、自分にとってはとても深遠な言葉なんです。ですから受け売りではないですが、私自身も伝えていきたいと思っています。

<学生のコメント>

○日本円はそのまま他国で使うことができず、換金するにしても信用で成り立っていることなのに皆何も疑わず使っているのが不思議でなりませんでした。実際ここでマクロについて学んでいくうちに、通貨のみならず経済状況についても鳥瞰して見ることができるようになったのでよかったなと思います。
 また世の中には理論だけでは成り立たないことも多く、考える上で基盤となる経済現象を見つけること、現在の経済状況に目を向けることの大切さを学びました。
 現在は行動経済学をテーマに研究しています。行動経済学はまだまだ発展途上の学問なので難しいところですが、人間の行動と社会現象とをすり合わせながら経済を見ていければと思います。

○最初は法学コースに進もうと考えていました。というのも私の中で「経済学=無味乾燥なもの」というイメージがあったからなんですが、実際に学んでいくうちに実は人間の感情や選好が関わってくる学問であることが分かり、これこそ自分が学びたい学問だと経済コースを選びました。
 杭田先生は勉強以外にもよく相談にのってくださり、笑い話を交えながら興味・関心を広げてくださいます。だから最近では特に用事がなくても研究室にお邪魔しています(笑)。
 現在は金融について勉強しています。個人的にはサブプライムローン問題に興味があるので、将来的には経済における金融の立場を自分なりに考えていければと思っています。