人文社会科学部研究室探訪●Part6(vol.3)page1

研究室探訪 vol.03
研究室探訪 vol.03
研究室探訪 vol.03

Profile
OTOKITA Nobuhiro
東北大学文学部哲学科哲学専攻(1989年)、東北大学大学院文学研究科哲学専攻(1998年)、博士(文学)


人間科学課程の教育目標は「人間性の解明」だそうですが、人間情報科学コースではそれに対し、どのようなアプローチから迫っているのでしょうか


人間情報科学コースでは、人間学的なものと情報科学的なものを学際的に統合し、「人間とはどういう存在であるのか」ということを追求していきます

 人間科学課程の一つの特徴として、行動科学コースには心理学や社会学、人間情報科学コースには情報科学と、「人間学」といって哲学や倫理学、言語学などを専門にするさまざまな先生がいらっしゃいます。行動科学コースは実証的な研究、つまり実験や統計的な調査といった観点から人間の行動に迫っていくのですが、人間情報科学コースは文献的な研究、つまり伝統的な人間観や倫理についての考え方、さらには情報科学の観点から人間の心を捉えていきます。要するに、人間学的なものと情報科学的なものを学際的に統合したアプローチ方法と言えますね。

行動科学コースとはカリキュラムを共有する部分も多いと伺いました

 人文社会科学部では、所属するコースを主専攻に、ほかのコースも系統的に履修できるよう、「主副専攻制」を採用しています。人間情報科学コースの学生さんを見ていると、やはり行動科学を副専攻にしている方が多いようです。人間科学課程ではさまざまな領域の先生が協力し合って教育を行いますので、学生さんも一つの分野だけでなく総合的な観点から「人間性の解明」を追求することが許されているのだと思います。

人間性を解明する上で大切なことは何でしょうか


さまざまな心の問題を考える上で、重要なのは人間に対する「好奇心」

 私は「好奇心」が重要だと思うんです。高校生の方って心理学が好きで、「心理学をやりたい」と言ってこの課程に入ってくる方が多いのですが、単なる心の内側の分析ではだめだと思うんですよ。さまざまな問題を考える上で「心」を振り返るのはもちろん大事なことですが、その社会的背景や歴史、文化などについても十分に把握しなければいけない。そういった意味で、好奇心を持つことは非常に大事だと思います。

先生は哲学・倫理学を専門とされていますが、興味を持たれたきっかけは

 やはり一つは良い先生に恵まれたということですね。私が学生のときは、教養部といって1・2年生では専門に進まず、いろいろな学部の人たちが集まって一緒に授業を受けていたのですが、そのときの哲学の先生の人柄にすごく惹かれて。授業は現代フランスの哲学者・メルロ=ポンティの思想についてだったのですが、彼は昔の哲学者のようにただ思弁的なことをするのではなく、現代のさまざまな経験科学の成果を哲学の中に取り入れるタイプの哲学者だったんです。当時、私はいろいろなことに興味があったのですが、何を専門にすればよいか分からなくて…。メルロ=ポンティの本を読んでいると難しくて分からないこともたくさんありましたが、実験心理学や精神病理学など、とにかくいろいろな学問が出てきたわけです。20世紀前半から半ばにかけての経験科学の成果を踏まえて哲学するといった新鮮なスタイルにも惹かれ、この分野に進めば何でもできるんじゃないかと思いました。今からしてみれば、浅はかな考えですよね(笑)。

現在、どのような研究テーマに取り組まれていますか


総合的な観点から物事を見せてくれるような新鮮さが、メルロ=ポンティの哲学の中にありました

 研究テーマは大きく分けて二つです。一つは今言ったメルロ=ポンティやマックス・シェーラーといった20世紀前半から半ばにかけて活躍したフランス語圏、ドイツ語圏の哲学者の研究。現象学や哲学的人間学と呼ばれる分野です。近代哲学のデカルトやカントは自我の形成において理性を偏重しますが、メルロ=ポンティは身体、マックス・シェーラーは感情にそれぞれ重きを置いていて、私はそうした現代の哲学的人間学の流れについて研究しています。もう一つは、今遺伝的な存在として人間を研究するといった遺伝子研究が盛んになっていますが、そうした進化生物学の中でどれほど人間のことを解明することができるのかといったことについて考えています。これは科学哲学と言われる分野で、例えば人間の道徳は動物の社会的な仕組みの中で解明できるのか、つまり同じレベルで言えるものなのかということを考察しています。動物の行動は、進化生物学で言えば自分の遺伝子を残すための行動と言われており、それが生物の本質とされてきました。自分の近縁の遺伝子を残すために社会ができているといった考えです。果たして人間もそうなのか…というのが一つのテーマではあるのですが、どちらかと言うと私は批判的な観点から研究しています。人間は違うんじゃないだろうかと。