人文社会科学部研究室探訪●Part7(vol.1)page2

准教授 中島 清隆001
准教授 中島 清隆002
准教授 中島 清隆003

Profile
NAKASHIMA Kiyotaka
横浜市立大学商学部経済学科(1998年)、広島大学法学部法学科(2001年)、広島市立大学大学院国際学研究科国際学専攻【修士(国際学)】(2003年)、同【博士(学術)】(2007年)


具体的にはどのような研究に取り組まれているのですか


環境人材育成プログラムは、持続可能な開発・発展のための教育(ESD)の考えの下、産学官民連携を活用した環境人材の育成を目的に始められました

 現在の研究を「持続可能性の環境政策に関する社会科学分野の学際・総合研究」と位置づけ、環境問題を解決するための方針、環境政策に関わるさまざまな論点について、政治や法律・経済・経営・教育といった複数の社会科学分野からアプローチしています。
 具体的には、三つのテーマに取り組んでいます。一つ目は、学生時代から関心を持っている「地球温暖化・気候変動問題」と「持続可能な開発・発展」の関係性。地球温暖化・気候変動問題は地球環境問題の一つで、問題解決に向けては国際交渉や国際協力と各国の環境政策が重要になります。地球温暖化・気候変動問題の解決には、一国だけで取り組んでも限界があると認識されていることから、国際協力が必要とされ、これまで20年以上の間にいくつもの国際交渉が進められてきました。
 地球温暖化・気候変動問題の国際交渉や国際協力、環境政策と並行して進められてきたのが、持続可能な開発・発展についての議論・研究です。開発・発展とは、人類が地球上で生存していくための手段またはその結果と捉えられます。しかし、人類による開発・発展が大規模になっていったために地球環境は破壊、汚染されることで、人類にも悪影響が及ぶようになりました。そこで、持続可能な開発・発展のあり方が学術的にも議論されるようになったのです。
 環境と開発・発展の双方を尊重し、達成できるような方策を考えるために、両者の関係性をより広く捉えることができないかについて研究を続けています。
 二つ目のテーマに「環境マネジメントシステムの有効性」があります。人文社会科学部の専任教員となったのは今年度(2013年度)からですが、岩手大学には2009年7月に赴任しています。平成21年度環境省「環境人材育成のための大学教育プログラム開発」採択事業「π字型」環境人材育成プログラムを担当してきました。
 プログラムの内容の一つに環境マネジメントシステム(EMS)があります。2010年11月12日、岩手大学は環境マネジメントシステムの国際規格であるISO14001を認証取得しました。本学の環境マネジメントシステムは、岩手大学環境マネジメント学生委員会に代表されるように学生と教職員とが協働して取り組むとともに、教育プログラムにも反映させていることが特長です。岩手大学の環境マネジメントに関する取り組みは外部でも高く評価されており、フジサンケイグループ主催の地球環境大賞において、大学としては初となる文部科学大臣賞を受賞しました。
 近年、特に日本では、費用が高く効果が少ないとの声からISO14001の認証取得が減りつつありますが、使い方によってはまだまだ効果が発揮できると考えています。環境マネジメントシステム、特にISO14001の有効性について、横浜市立大学の深沢利元先生(横浜市立大学CSR*センター副センター長)と共同研究を行っています。
 三つ目のテーマは「東日本大震災からの復興・新生に向けた持続可能な地域社会の形成要件とメカニズム」です。岩手大学では1990年前後に、産学官連携の岩手ネットワークシステム(INS)を始めています。私はINSの研究会の一つ、CSR/環境人材育成研究会の事務局を岩手大学環境人材育成プログラムの一環として担当しています。この研究会は、三つ目のテーマに関するアドバイザー組織と位置づけています。
 震災以降、復興を目指し活動を続ける沿岸地域で持続可能な地域社会を作るために必要な条件と仕組みについて研究を進めています。昨年(2012年)に、野田村で市民共同太陽光パネル発電所が設立され、12月から運営が始められました。これを具体的なケースとして震災復興や持続可能な地域社会の形成に必要な条件を見つけ出し、そのメカニズムを解明していこうと考えています。この研究テーマを進めることで、私個人としても微力ながら震災復興に携わっていけたらと望んでおります。
 *CSR:企業の社会的責任

そうした研究が授業にも活かされている


「環境科学入門」「環境科学演習」では、地球温暖化・気候変動問題に対する国際的な取り組み、日本の取り組みの歴史についてお話しました


人文社会科学部専門科目「環境マネジメント実践演習」では、学生が地元の中小企業を訪問取材し、環境に対する考え方や取り組みなどをまとめた「環境報告書」作成のお手伝いをしています

 大学での教育・研究活動に際し大事にしているのは、研究活動で気づいたことや学んだことを教育活動に反映し、教育活動で得られたことを研究活動に活用していく好循環構造を作ることです。
 現在、私は三つの研究テーマを進めています。例えば一つ目の「地球温暖化・気候変動問題と持続可能な開発・発展の関係性」の研究に関しては、環境政策論研究室の基本科目「環境政策論Ⅰ・Ⅱ」で、持続可能な社会とそれを構成する社会の一つである低炭素社会について、環境法の観点を交えてお話しています。特に「環境政策論Ⅱ」では、地球温暖化・気候変動問題に関わる国際交渉のロールプレイとして、受講生が日本・アメリカ・EU(欧州連合)の三つの立場に分かれて交渉を体験してもらっています。
 二つ目の「環境マネジメントシステムの有効性」の研究に関して。全学共通教育科目「環境マネジメントと岩手大学」「環境マネジメント実践学」は、ISO14001のルール通りに岩手大学の環境マネジメントシステムが作られ運用されているかどうかについて、受講生と教職員とがチームを組んでチェックする内容になっています。私はISO14001の内容についての講義を担当しています。
 そして三つ目の「東日本大震災からの復興・新生に向けた持続可能な地域社会の形成要件とメカニズム」の研究に関しては、全学共通教育科目「持続可能なコミュニティーづくり実践学」「地元の企業に学ぶESD*」の二つが関連する講義だと思っています。これらの講義を創設された山崎憲治先生(前・岩手大学大学教育総合センター教授)の後を2012年度から引き継ぎました。現職の市町村長や経験者をはじめ、企業やNPO法人の方など岩手県内外で持続可能なコミュニティーづくりやESDを実践されている方々を講師としてお招きし、毎週水曜日の18時10分から市民公開講座として行っています。受講生には持続可能なコミュニティーの理想像やESDに関連するビジネスプランについて、ディスカッションやレポート作成を通じて表現してもらっています。こうした外部講師の講演や受講生の意見は、持続可能な地域社会研究を進める上でも大変参考になります。
 *ESD:持続可能な開発・発展のための教育

最後に、学生や高校生が環境科学・環境政策を学ぶ上で心構えのようなものはありますか


一見関係ないと思われることでも、それが環境科学や環境政策の重要な要素でないとも限らないので、まずは幅広く関心・興味・問題意識を持ってもらいたいですね

 環境について人類と地球内外の自然との関係性と捉えると、自分と関わる物事はすべからく環境科学・環境政策の研究対象になり得ると考えることができます。ということは、大学や高校までに受けている教育―国語・数学・理科・社会・英語といった基盤科目だけでなく、美術・音楽・保健体育・技術・家庭科などの科目にも環境教育に関わる部分はあるのかなと。あるいは、日常生活の中でも環境科学・環境政策に関わる物事がたくさんあるのではないかなと。それに気づけるかどうか、興味を抱けるかどうか、もっと言えば問題意識を持って複数の物事を関連づけることができるかどうかが大切ですので、現在学んでいることや体験していることにしっかりと取り組みながら、幅広く関心、興味、問題意識を持ってもらいたいと思います。とは言え、個人は時間や費用・能力などの資源が限られています。限られた資源の中で深く学びたい、研究したいというものをできるだけ早く見つけ出していくことも必要になるかと思います。
 また、私が担当している全学的な環境人材育成プログラムでは、環境問題の基礎知識を広く学び、身につける「基礎的環境力(横軸)」に加え、人文社会科学部等の専門知識・スキルを深く学ぶ「学部の専門性(縦軸1)」と、環境マネジメントや環境報告書のスキルを実践しながら深く身につける「実践的環境力(縦軸2)」、そして縦軸と横軸を結びつける「ESDの価値観」を備えた「π字型」環境人材の育成を目指しています。環境科学課程で学びたい高校生や既に学んでいる大学生の皆さんには、このような知識やスキル・価値観の広さと深さを兼ね備えた環境人材を目指してもらいたいと思います。
 最後に、環境科学課程の学生の皆さんには二つの「そうぞう」力―イマジネーション(imagination:想像)とクリエーション(creation:創造)を発揮し、自ら学び研究したことを表現できるようになってほしいと思います。自らを他者に伝えなければいけない場面が今後出てきます。自己表現はとても難しく、課題も多いかもしれません。しかし、その経験は新たなチャンスや展開を生み出すなどプラスの側面もあり得ると思います。自ら学び研究した「インプット(input)」を他者に「アウトプット(output)」することを螺旋状に続けていき、さらなる成長を遂げていってもらうことを望みます。
 ただ、これら三つについては、高校生や大学生だけでなく私自身の課題であると思っています。特に、今後研究室に所属する学生とは、一緒に環境政策を研究する一研究者としてお互いに学び合える関係を作っていくことが理想ですね。