人文社会科学部研究室探訪●Part7(vol.3)page2

准教授 河合 塁001
准教授 河合 塁002
准教授 河合 塁003

Profile
KAWAI Rui
中央大学法学部法律学科(1998年)、中央大学法学研究科民事法専攻【修士】(2000年)、同【博士】(2007年)


先生が心がけている指導方法は何でしょうか


一見もっともらしいことでも、その裏に隠された本質がないのか、疑ってみる必要があります

 私が指導する際に心がけているのは、次の3点です。
 1つ目は、イメージを持てるような説明をすることです。私自身そうだったのですが、イメージが持てないとなかなか頭に内容が残らないと思います。ですから、例えば判例なども「どんな事件なのか」イメージが持てるように、時にはオーバーなくらいに丁寧に説明するよう心がけています。
 2つ目は、実際の労働現場を意識しながら問題を考えてもらうということです。多くの学生が将来実際に働く場では、教科書にも載っていないような悩ましい労働問題がいろいろ起きます。だからこそ、そのような観点から、自分のサラリーマン時代の体験なども織り交ぜながら、講義するようにしています。
 3つ目は、本質を突き詰めて考えてもらうということです。角田邦重先生は、「物事を無批判に受け入れてはいけない」ということをよくおっしゃっていました。難しいことですが、皆が「当たり前」と思っていることが、本当にそうなのか。そこから出発する。その言葉が私の労働法研究の座右の銘となっており、学生たちに話をする際にも「本質に辿り着くためには常に疑いの目を持って、あらゆる視点から物事を見る必要がある」ということを強調しています。
 身近な例で言うならば、例えば採用面接の時に「労働法を勉強しています」と言うと嫌な顔をされたという話をたまに聞きます。しかしそういう会社に限って、ホームページで「わが社はコンプライアンス(法令遵守)に力を入れています」と謳っていたりする。要は、「法令を守る」という、一見反論のしようもない言葉に、企業の「俺のルールを守れよ」という本音が隠されていて、そういった企業にとっては「俺のルール」の妥当性を問う労働法はうっとうしい存在でしかなく、それが顔に出るのではないでしょうか(笑)。企業が全部そうだとは言いませんが、結局、「法令遵守=良いこと」という前提で議論を展開しているだけでは、本質的な問題を見落としてしまう危険がある、ということです。
 労働法は、「主従の情誼」や「労使自治」などといった美辞麗句に隠された「本質」に痛い目に合ってきた歴史があります。一見反論のしようのない、聞き心地のいい言葉でも、それを「当たり前の前提」として議論を出発するのではなく、そこに隠された「何か」が本当にないのかをまず徹底して疑う。その結果、それが正しいものであったとしても、そのような作業は、本質を正確に捉え、議論を骨太にすると思います。

法学を学ぶ上で、学生に必要な心がまえはありますか


現実と理想の境界に立つ。理想の追求も法律の重要な役割です

 法学は、現実社会と密接な学問ではありますが、それと同時に「社会のあるべき理想」を追求する面も持っています。そのことから、時に「現実社会の実態に合わないきれいごと」と批判されることがあります。特に最近は、数値で説明できないもの・目に見える成果がすぐ出ないものは評価されにくい風潮があり、そのような中で「理想」を追求することには風当たりも強いです。
 もちろん、法律は社会の現実を踏まえないといけない部分はあるのですが、理想を打ち立て、社会をそこに方向づけていくことも重要な役割であり、それを法律が放棄してしまっては社会が向かうべき方向も見失われてしまう。法学を学ぶことは、このように現実と理想との間で苦しむことでもあるのです。現実に目配せしつつも、「社会の理想を語ることができるのは、法学を学ぶ自分たちの特権であり、役割だ」という心がまえと誇りを持って、ついでにディレンマも抱えながら、学んでいってほしいですね。ちょっとオーバーですが(笑)。

これから法学コースを目指そうという高校生や学生の皆さんにアドバイスをお願いします

 色々あるのですが、まずは「自分と違う意見にも耳を貸す」という視点を心がけてほしいです。皆さんの中には、「法律を学んで、困っている人を救いたい」という思いで法学コースを目指す方もいると思いますし、それはいいことなのですが、それだけでは相手を説得できない場面も実際には多々ありますし、その中で相手の立場とどう調整していくかは常に問われます。法学の知識を身につけること以上に、そういった「自分と違う意見にも耳を貸し、相手と調整する」という視点を持ち続けることが大切なのです。
 また、受験勉強の中では、あるいは法学の道に進んでからも、挫折したり自信を失うことがあるかもしれません。しかしそういった経験の中で感じた弱さや苦しみも、法学を学ぶ上では私はプラスだと思っています。人はしょせん弱い存在で、法律も「人の弱さ」を見失ってはいけないのですから、「弱さ」を経験していることは、人の痛みが分かるという点で強みにもなりますし、だからこそ見えてくること・気づけることもあります。私の、研究者としてのバックボーンも、そこにあると思っています。ですから、あきらめないでほしいと思います。さんざん法学で挫折した私が言うのだから間違いないですよ。


<学生のコメント>

○法律は、私たちの生活に密接な関わりを持つ学問です。普段何気なく行っている買い物は売買契約という契約が結ばれているし、そこには一定のルールが存在しています。私たちは人との関わりの中でこのルールに従って生きているわけですが、中でも労働法は、私自身も将来社会人になる際に必要となってくるため、特に身近なものであると思います。労働法に詳しくなり、社会で起こる様々な問題に対処する力を身につけたいです。
 河合先生は、「こんな簡単なことを聞いてもいいのかな」と思うような質問に対しても真摯に答えてくださるので、私たちも気軽に質問することができます。
 また、先生は労働問題や社会問題に対して、どんな切り口で見ていけばいいのかを示してくださったり、こういう考え方もあるという斬新な発想を教え導いてくださる方で、非常に勉強になります。これからも先生のもとで労働法を学び、実際社会に出てからも生かしていきたいです。

○私が法律を学ぼうと思ったきっかけは、高校の時に先生が社会の成り立ちについて事細かに教えてくれたことが大きいと思います。その先生は、社会において法はなくてはならないものだとおっしゃっていたのですが、そこから「そもそも法とは何か」という疑問が湧いて、この道に進むことを決意しました。
 法律を学ぶ魅力は、社会で発生する紛争について一つの解決方法ではなく、そこに至る過程や用いた判断基準が何故良いのか等を考えることにより、合理的な思考能力を身につけることができる点にあると思います。
 私は、社会で起こっている問題について考える際には、法律だけでなく他の視点からもバランス良く考えることが大切だと思っています。ですので、この法学・経済課程で両方の視点を学び、今後の研究にも取り組んでいきたいです。

○私はもともと法律を勉強したかったのですが、法律だけでなくもっと視野を広く持って物事を考えたかったので、経済も学ぶことができる「法学・経済コース」を選択しました。
 河合先生はとても話しやすい方です。例えばゼミの前にも「バイトでこんなことがあった」という労働上の相談をすることがあるのですが、「こうしたらいいんじゃないか」と親身になって話を聞いてくださるので、他の学生たちからの信頼も厚いです。相談の中で労働法と社会生活との関わりを実感することができ、私の法律への興味が深まるきっかけにもなりました。
 将来は労働法に関係する仕事に就きたいので、今後は法社会学の観点なども持って労働法への知識をより深めていきたいと思います。