人文社会科学部研究室探訪●Part7(vol.4)page1

准教授 鈴木 護001
准教授 鈴木 護002
准教授 鈴木 護003

Profile
SUZUKI Mamoru
岩手大学人文社会科学部行動科学コース(1992年)、シカゴ大学大学院人文科学研究科【修士】(2004年)、ペンシルベニア大学大学院博士課程犯罪学専攻【博士】中退(2009年)、科学警察研究所(1993年)、同【主任研究官】(2004年)


岩手大学における人間科学課程の特徴は何ですか


いろいろな経験を積み上げ、人と触れ合い、心理学への扉を開いて

 実は2012年10月に赴任したばかりで、現状の全てを把握しているわけではありませんが、岩手大学における人間科学課程の大きな特徴として挙げられるのは、他の課程も含めて幅広く学ぶことができる点にあると思います。
 人間科学課程は行動科学コースと人間情報科学コースの二つに分かれていますが、その枠にとらわれず自由に興味のある分野を勉強できます。2年生では哲学・心理学・情報科学・社会学などの基礎知識を蓄えるとともに、実習科目で基本的な研究スキルを身につけて、3年生の必修科目である人間情報科学演習(人間情報科学コース)・特殊実験調査(行動科学コース)といういわゆる「プレ卒論」に備えていきます。3年生ではこの「プレ卒論」に前期と後期で1回ずつ取り組んでいく中で、徐々に卒論で扱う自分の最終的な研究テーマを決定していくことができるため、最初から研究分野を一つに絞るということはありません。
 一般的に大学では、どこかの研究室に所属して自分の専門分野を絞り込んで研究するという形だと思いますが、人間科学課程では両コースに配属された学生を、各コースの教員全員で受け持つ形式をとっており、その点で非常にオリジナリティーのあるシステムとなっているのではないでしょうか。幅広く興味と知識を身につけ、その上で自分が「これだ」と思ったものを究めることができる。こういった点が、他にはない特徴であると思いますよ。
 また「プレ卒論」には発表会もあり、ただ論文を書いて終わりではなく、学生たちが先行研究を参考にして、自分がどのような実験・調査を行ったのか報告する場を設けることで、より深い学修が可能となります。学生たちの報告に対して、専門が異なる教員それぞれの立場から、様々な意見や質問を浴びせる。学生同士も様々な疑問をぶつけたり、議論を深めたりしていきます。そういった形で問題を掘り下げることで、思いもよらぬ面白い発見ができ、研究に深みが生まれます。中には斬新なテーマを取り上げる学生もいて、教員も学生と一緒になって勉強していくという場合もあるんですよ。教員もあらゆる分野に精通しているわけではないので手薄な部分もありますし、我々が学生の時にはなかった新しい問題もあり、そういったテーマを学生が持ってくるわけです。それを「一緒にやってみよう」と取り組んでいる。そういった意味では、学び合いの良い形が残っていると言えます。
 卒業論文では「プレ卒論」の経験を活かして、1年をかけて何度も発表会を経験しながら、独自の課題に取り組んでいます。個人研究ですが学生同士が励まし合い、狭い枠にとらわれず、教員も学生も活発に意見を交換し合うことで力がつきます。専攻した専門知識を深めることに加えて、その過程で議論やプレゼンテーションを始めとするコミュニケーション能力を身につけることができますので、その点で非常に魅力ある課程です。

行動科学コースでは、実験実習科目があるそうですね。実験というと、具体的にどのようなことをされているのでしょうか


自分が普段どのような物差しで何を考えているのか、見つめることが心理学への第一歩

 例えば脳波を測定したり、ものの見え方などの錯覚に関する実験を、実際に自分で体験しそれをレポートにまとめる行動科学基礎実験という科目が2年次にあります。そこでは様々なテーマについて学ぶことができ、実験手法や分析方法など心理学の研究を進める上での基礎的スキルを習得することが可能です。
 私が実験実習科目で担当しているのは、身近な他者の捉え方に関するものです。これは自分が無意識に持っている「人を見るときの物差し」を、自分自身で発見してみようというものです。例えば「私は人を見るときに、正直さに重点を置いている」というような物差しですね。我々は普段ほとんどそういった、人を見るときの尺度を意識して生活していませんので、分析した上ではっきりと結果に出してみることで、対人関係についての社会心理学への理解を深めることにつながります。自分を知るということが、心理学に対する理解への第一歩であるわけです。
 それから、調査方法の実習も行動科学を学ぶ上では重要です。アンケートを企画し、内容を詰め、実際にアンケートを行って分析するという社会調査法実習という科目があります。調査は簡単そうに見えるかもしれませんが、しっかりとした調査方法を用いなければ、信頼性のある結果を導くことはできません。結果は質問の形式、順番、組み合わせ次第で大きく変わってくるものですから、これまで歴史の中で積み上げられてきた確かな理論とノウハウを参考にしつつ、最適な調査方法を慎重に考えていく必要があります。「理論的にはこうなるはずだから、じゃあこういうふうに聞かなければならないな」と考えていく。そういうところを実体験として、自分たちでやってみることで、力がつくのではないかと思います。
 ただ、実験や実習というのは実際の人間を対象に行うものですから、はっきりとした結果が出ない場面もあります。準備し尽くして調査を行っても、なかなか仮説どおりにはいかないこともあります。ですから時間をかけ、じっくり取り組む。そうした中で見えてきた答えは貴重ですし、達成感もあります。そこが行動科学を学ぶ醍醐味の一つでもあるのではないでしょうか。

鈴木先生のご専門とされる社会心理学について、お聞かせください


どのような仕事に就いても、心理学は常に生かすことができます

 簡単に言うと社会心理学という分野は、人が誰かといる時や誰かと一緒に行動する時に特徴的なものの考え方や行動を、科学的に研究する分野です。周りに人の目があるとき、それを全く無視して人が行動することは稀です。また他の誰かと作業すると、一人でやる場合よりも能率が上がったり、逆に下がったりします。また他人の印象をどう作り上げるのか、逆に他の人に自分をどういうキャラクターに見せるのか、そうした問題も社会心理学で扱います。心理学が一人の人間の内部メカニズムを対象とし、社会学が様々な人間集団レベルのメカニズムに着目するのに対して、社会心理学は他者がいる場面や他者を意識した際に、個人やその周囲の人々がどう影響を及ぼし合うのかを解明していきます。
 今では社会心理学の分野は、様々なテーマが様々な手法で研究されているため、全体を見通して全てを理解するのは簡単ではありません。私自身が大学時代にやっていたことはテーマや手法の点で少し特殊なもので、地域社会に密着し、集団の形成方法とその集団が村に及ぼす影響について調査を行いました。恩師の細江達郎先生(岩手大学名誉教授・岩手県立大学名誉教授)が、青森県の下北地域で随分長く研究をなさっていため、その一環として、私も下北地域へと赴き泊まり込みで調査をすることになったという次第です。先生は、その地域の出身者がどのように職業を選択して社会を担っていくのか追跡調査をされていました。しかし、私は少し視点を変えて、村の中に若者を中心としたグループができる際に、誰が誰をどのようにグループに誘ったのかや、そのグループができたことで村はどう変化したのかについて、地域住民の方々にインタビューして調査したのです。グループというのは、例えばよくある野球同好会であるとかバレーボール同好会であるとか、そういった集まりです。表面的には、村の若者がスポーツの同好会を作っただけですが、それができるまでや出来上がったグループの活動を通して、村の人に様々な影響を与えていたのです。調査では、村の公的な資料、関係者へのインタビュー、活動への立ち会いと行ったことを通して、その影響を明らかにすることができました。
 大学を卒業してからは、科学警察研究所で非行や犯罪の調査研究に携わることになりました。専門的な立場としては、社会心理学的な犯罪心理学ということになるでしょうか。犯罪というのは、社会心理学とは無関係に見えるかもしれません。しかし、犯罪の発生には加害者だけではなく、被害者がいて発生場面があり、犯罪を防止するために活動する行為規制者(警察や場所の管理責任者)がいるのです。その相互作用を見ていくことは、まさに社会心理学的な見方が必要なものだと考えています。
 私がこれまで携わってきたことは、一般的な社会心理学の研究とは随分異なるものであるかもしれません。しかし私はそのくくりで縛られるというよりは、もっと広く社会心理学というものを捉えていきたいのです。人間というものはたった一人で生きているわけではなく、家族がいて、知人がいて、住んでいる地域がある。そういう中でいろいろなやりとりをしながら生きている。そんな広い捉え方で私は社会心理学を考えていきたいですね。