人文社会科学部研究室探訪●Part7(vol.4)page2

准教授 鈴木 護001
准教授 鈴木 護002
准教授 鈴木 護003

Profile
SUZUKI Mamoru
岩手大学人文社会科学部行動科学コース(1992年)、シカゴ大学大学院人文科学研究科【修士】(2004年)、ペンシルベニア大学大学院博士課程犯罪学専攻【博士】中退(2009年)、科学警察研究所(1993年)、同【主任研究官】(2004年)


具体的な研究内容を教えてください


データを集め分析し捜査方針を提案するなど、これまで様々な犯罪行動研究に携わってきました

 今は大学の教員としては赴任して日が浅いということもあり、まだ講義準備や学生指導のウエートが高いのですが、これまで私が主に研究してきたことは、「犯罪不安」、「犯罪者行動」、「詐欺被害」などの犯罪心理学的研究でした。
 「犯罪不安」とは、地域で生活する人たちが自分の住んでいる地域について、どれくらい安心感を持って暮らしているのかを調査するものです。犯罪被害の不安を抱えて生活していくのは、生活の質という点では望ましいものではありません。一方で、犯罪被害のリスクに気づかないで生活していることも、望ましい状態ではありません。被害に遭う可能性を正確に見積もり、そしてその危険性を小さくしていくことで、本当に暮らしやすい日常を手に入れることができますし、それを地域住民と公的機関の連携によって達成する方策を検討していきたいと考えています。
 また、「犯罪者行動」に関してはこれまで、警察など事件を捜査する側・犯罪者側・被害者側それぞれの観点を分析し、捜査員に対しアドバイスする仕事をしていました。普段通りの捜査では手詰まりという時に、「こういった情報を手に入れてこんなふうに分析すれば分かるかもしれません」という提案をしていく仕事です。特に、犯罪者プロファイリングや犯人像推定と言われる分野の中で、犯罪者や被害者の空間的な行動の側面を中心に分析を担当していました。他の国とは違い、日本では警察以外の立場で犯罪捜査に関与していくのは難しいのですが、基礎的な研究を続けることによって、これまでお世話になった捜査員の方や、一緒に研究を進めてきた科学警察研究所・科学捜査研究所の担当者に、少し違った形で貢献できればと考えています。
 「詐欺被害」に関しては現在も引き続き、振り込め詐欺—特に架空請求に関して、被害者側の観点で調査を行っています。全く詐欺に遭ったことのない人と、架空請求を受け取ったものの詐欺と気付いた人、架空請求で実際お金を支払ってしまった人という3パターンに分けて比較することで、どういう要因がお金を支払うというアクションを起こしてしまうのか、被害を途中で止めるためには何が必要かを分析しています。ニュースなどで取り上げられる典型的な詐欺にはひっかからないのに、そのパターンから少しでもずれると、途端に詐欺と気付かず被害に遭う方もいるので、そういった方のためにも何かアプローチできればと考えています。犯罪心理学の研究者として、被害者を減らすという気持ち・スタンスはやはり大切だと思います。
 さらに岩手大学に着任したことから、東日本大震災のことも念頭にあります。なぜ人的被害がこれほどまで拡大してしまったのか、被災地の復興のために地域社会をどう立て直すのか、社会心理学的研究が明らかにすべき課題は多いはずです。現在、被災地の犯罪発生状況を研究している大学院生を指導していますので、それを通じて少しずつ震災からの復興に関する研究にも取り組んでいく予定です。

授業において、心掛けのようなものはありますか


物事を「理解」するというのは、他人に分かりやすく「説明」できるということ

 頭で理解するというより、体に染み込むように納得できるような授業ができればと思っています。体に染みついて理解するというのは、学んだことを自分の言葉で人に説明できるということです。本当に理解した上で、その知識を自分のものにしているのであれば、例えば社会心理学を一切学んだことのない人にも、分かりやすく説明できるのではないでしょうか。
 私の授業を受けた学生たちが、そこで学んだことを自分の生活に応用したり、人に分かりやすく伝えていく状況が理想であり、そこまでいけば成功だと考えて講義をしています。

これから社会心理学を学ばれる学生、高校生の皆さんへアドバイスをお願いします


人間のどこに魅力を感じるか。素朴な関心を大切にしてください

 心理学や社会心理学に興味のある方は、素朴な疑問や関心を大切に育てていってほしいと思います。あらゆる経験を積み、その中で見えてくる人間の姿から浮かぶ疑問があるはずです。それが社会心理学を学ぶ第一歩になると思います。社会心理学に興味・関心を持っている方たちには、その点を伝えたいですね。人間の行動の中で不思議に思っていることを自分なりに考え、興味を深めていってください。そうした土台を作っておくと、それが社会心理学的にどう説明できるのかということを、大学で学んでいくことができます。日頃から様々なことについて、自分のアンテナの感度を上げて生活していくことが、社会心理学を学んだ時の深い理解につながっていくのではないでしょうか。


<学生のコメント>

○岩手大学では、最初から研究分野を一つに絞るのではなく、あらゆることを学んでいく中で自分の興味を深め、最終的な研究を決めていくことができるシステムが魅力です。私もそういった形で、様々なことを幅広くやっていく中で研究テーマを見つけていこうと思い、この人間科学課程で学ぼうと考えました。大学院の先輩も研究室に常駐しているため、何か疑問があればすぐ質問できますし、先生方との距離も近く、勉強するのに非常に良い環境が整っています。
 心理学を学ぶ上で大切なのは、あきらめないことです。研究では、文献が集まらなかったり、アンケートをとっても思うような結果がなかなか出ないことが多いです。それでもあきらめずに挑戦し続ければ、何かしら収穫が得られるに違いありません。うまくいかなくても、折れずに学び続ける姿勢が大切だと思いますね。
 大学は最後の勉学の場。とことん学んで、卒業後は公務員になろうと考えています。学んできたことを直接生かすことはできませんが、それでも人間関係というものはどこにでも生まれるものなので、職場でも社会心理学を活用していきたいです。

○心理学は、人のことを深く知ることができる学問です。私は人が好きでこの道に進みました。3年次からの編入で岩手大学の行動科学コースに入ったため、他の学生が2年次にやることも3年次でこなさなければならないということがあり、大変なのですが、岩手大学では心理学を実践的に学ぶことができ楽しいです。
 鈴木先生は授業ではにこやかに楽しい講義を、研究室では少し雰囲気を変え、淡々とした口調で真剣に私たちの質問に答えてくださる方です。その使い分けや学生に対する対応が、さすが心理学の先生だけあって「いろいろ計算しているんだな」と感じますね(笑)。
 岩手大学には鈴木先生をはじめ、心理学・社会学といろいろな分野の素晴らしい先生方がそろっていて、学生本人次第でいくらでも充実した学習ができる環境があります。ですからこの環境を生かし、少しでも興味の湧いたものはどんどん掘り下げ、貪欲に学ぶという姿勢が大事なのではないでしょうか。
 私は今、ブレインストーミングについての研究をしています。これは簡単にいうと、一定のルールを設けた上で、集団でアイデアを出し合うという一つの発想法のことです。この発想法について従来のものと条件を変えるなどして、より良いブレインストーミングの方法を探っているところです。今後も、人のあらゆる行動や他者との関係性などを、観察・分析することで理解を深めていけたらと思っています。

○高校生のときから心理学に興味があり、その中でもとりわけ犯罪心理学に興味がありました。出身が東北なので大学も近いところと決めていたのですが、東北地方に犯罪心理学を扱っている場所がなかなかありませんでした。いろいろ探し調べているうちに辿り着いたのが岩手大学です。
 私はそういった経緯もあり、卒業後も大学院へ進学して、引き続き心理学を中心とした研究をしていきたいと思っています。現在は犯罪不安に関して研究をしているのですが、この分野は鈴木先生のご専門ということもあって、先生の著書を多く見かけるんですよね。私もよく論文を書く際に参考文献として使わせていただいていますが、先生の考えや分析には尊敬するところが多々あります。
 研究していると、毎日忙しくて夜遅くまでかかるということもあります。ですがそんな時でも、同じ課程の同じコースで心理学を学ぶ仲間たちがいて、共感したり、支え合ったりすることで新たな活力が生まれます。そういった意味でも研究は一人ではできません。悩みや情熱を共有した仲間との絆は、学習にあたって必要なことであると私は感じています。