人文社会科学部研究室探訪●Part8(vol.1)page2

准教授 西田 文信001
准教授 西田 文信002
准教授 西田 文信003

Profile
NISHIDA Fuminobu
慶應義塾大学文学部文学科中国文学専攻(1996年)、University of Hawai‘i at Mānoa大学院人文科学研究科言語学専攻【修士】(1997年)、City University of Hong Kong大学院人文社会科学研究科中文・翻訳・言語学専攻【博士】単位取得(2004年)


言語学研究の道に進んだ経緯をお聞かせください。また、言語学の中でも、なぜ中国語学を研究されているのでしょうか


一見不規則な言語の世界にも整然とした法則があることを知り、魅了されました。文化や環境を踏まえつつ複眼的な思考で中国語学のロマンを追い求めます



発音・色など、各言語で異なるパターンを徐々に解き明かす。そこが面白い

 幼いころから言葉には関心があり、小学校の時から国語の文法の時間が一番好きでした。小学校1年生の時、8言語で挨拶が書かれた下敷きをもらってそれを大事にしていたことをよく覚えています。NHKの語学講座や、海外に関するテレビ番組も好きで、当時放映されていた「すばらしい世界旅行」「兼高かおる世界の旅」「なるほど!ザ・ワールド」「世界ふしぎ発見」なども毎週欠かさず見ていましたね。高校に入ってからも、ちょうどそのころ刊行された三省堂の「言語学大辞典」が図書室にあり、休み時間にしょっちゅう眺めたりして。
 大学は文学部に入りましたが、生憎言語学科がなかったので中国文学を専攻し、開講されている言語学関係の授業はほとんど履修しました。また東京言語研究所というところに通い、授業で履修した以外の語学の講座を聴きに行くなど積極的に学習に取り組み、学部3年生の時は香港に留学しました。恩師の影響もあって広東語を中心に学習していく中で、言語を含め中国及び中国語圏に関わる諸問題について、学際的、複眼的に思考・判断をする基礎が養われたと思います。
 大学での言語学の勉強を通じて、一見不規則な言語の世界にも整然とした法則が存在することを知り、言語学の面白さに魅せられました。基本的な法則を理解することでより正確な言語習得の手助けになると実感したこともあり、言語の仕組みやその背後に隠されている法則をもっと知りたいと思うようになったことを昨日のことのように覚えています。
 私の学部時代の恩師の一人は広東語と英語が達者で、もう一人の恩師はタイ語・ベトナム語・カンボジア語等を教えていらっしゃった方でした。また大学院での指導教授は東欧のご出身でしたが、ヨーロッパ諸語以外にもチベット語・ビルマ語・韓国語・日本語も操る言語の天才でした。こういった方々に師事したおかげで、さまざまな言語の学習をすることができました。その学習の中で、一つの言語を絶対視してはならない、すべての言語は平等な価値を持つ、言語には普遍性があるが言語は文化の反映であるので背景となる文化・社会・環境等についても真剣に学ばねばならない、ということを痛感しました。
 中国語は研究対象が時間的にも空間的にも他に比類のないほど広範囲に渡っています。3000年を超える文献の歴史があり、おおざっぱに分けても10種類、詳しく分ければ1000種類以上にも及ぶ方言が存在します。日本の文化が太古の時代から中国の言語・文化と深く関わりを持ちつつ形成されてきたことは言うまでもありません。中国語の周辺地域、特に日本・朝鮮・ベトナムといった漢字文化圏への伝播や交渉の歴史・影響を考えても、研究対象としてこれほど魅力のあるものはないと私は感じました。数千年も前の中国語の発音が復元できるなんて、凄いと思いませんか。中国語学はロマンあふれる研究分野です。
 近年はブータンの諸言語も研究していますが、ブータンの諸言語も歴史的に見れば中国語の祖先と源を同じくしていると考えられます。
 しかし本音を言えば、食べ物がおいしい地域の言語を研究対象としたいと思ったのも事実です(笑)。欧米に行っても私はよくチャイナタウンに行くのですが、そこで中国語で話しかければ話に花が咲き、たいていはおまけをしてくれます。

アジア文化(言語学)を学ぶ上で大切なことは何ですか


知的好奇心を大切に主体的な学習を進め、幅広い知識を持つことで周囲に振り回されない考え方を身に付けることができます

 いかなる学問分野でもそうでしょうが、何といっても知的好奇心です。疑問点があったら「まあいいか」で済ませないで自分で調べること。一つのことをじっと考え抜く忍耐力。問題点を自力で見いだし、考える意欲を持ち続けること。まずこれらが大事です。
 例えば漢字の音読みから中国語の発音を考える際に、辞書を引いて中国語の発音を確認し機械的に覚えるだけでなく、中国語音を法則に基づいて予測し、発見的に学習する経験を積めば、更なる探究心が育まれることでしょう。中国語学という学問を通して、言葉の不思議、言葉について思索することの楽しさを学んでもらえることを期待します。
 また、学生時代にしっかりとした学問の作法を身に付けることが大切で、知的な体力作りは早ければ早いほうが良いです。幸いアジア文化コースの教員は皆さん幅広い教育を行ってきているので、学生には一つの分野に限定しないで幅広い知識を身に付けてもらいたいと考えています。
 日本人にとって、長い歴史の中で育まれてきたアジアの価値観と文化を学際的に勉強することは非常に重要なことです。アジア地域が占める世界的な位置を国際的視点から考察し、世界の流れを踏まえて公正に対応できる知識と能力を養うためにも、アジア文化コースで開講されている幅広い授業科目を履修することをお勧めします。そうすれば、目の前に立ちはだかる疑問点を解きほぐし、物事を一歩抽象化して考える能力も身に付くはずですよ。

アジア文化(言語学)の学習を通して、これから社会に出る学生の皆さんに身に付けてもらいたい力はありますか

 アジア文化について学ぶ中で学生たちは自然と「日本人としての自分とは何なのか?」を考えるようになります。つまり、各自のアイデンティティーが問われることにもなっていく。
 アジア文化コースの「日本を東アジアの視点でとらえ直すこと」というコンセプトは、日本を新たに発見し再評価することです。アジア文化コースでの学習を通じて、アジア地域の主に文化的な問題に対する理解力、調査能力、さらに語学力、情報発信能力などの能力を身に付けてほしいと思います。アジアから世界を見渡す「アジア力」をしっかり身に付けて、世界に「アジア」を発信していくことができるようになってもらいたいですね。
 自ら主体的に学び、多面的な視点から思考する能力は、自らの日常生活をより良いものにしていくためにも重要なものですから、この点も強調しておきます。
 言語学の学習を通じて、異文化へのしなやかな寛容さも身に付けることができると確信しています。

これから国際文化課程を専攻する学生、高校生の皆さんへアドバイスをお願いします

 学生時代はまず自分の興味関心のある事柄に打ち込んでください。この世に存在する現象は相互に複雑に絡み合っています。一つのことを究めようと思ったら、関連する分野のことも知りたいと思うようになり、次から次へと勉強すべきことが出てくるはずです。
 そこで、以下の3点について実行することをお勧めします。
・気の向くままに読書をしてください。考えるヒントが得られることでしょう。
・機会があれば海外(国内でもよい)に行き、街の空気を感じてみてください。五感が研ぎ澄まされることでしょう。
・他人と積極的に対話するようにしてください。他者を知ると同時に自己を知ることができるでしょう。
 国際社会の仕組みを知りたい、世界と日本の文化の違いを理解したい、外国語を背景となる文化を含めて学びたいという意欲ある方々に来ていただきたいと思います。



<学生のコメント>

○私は中国で生まれ育ち、11歳から日本で暮らしています。二つの文化を経験した者としてアジア文化を研究し、より理解を深めることで自分が両者の架け橋になれればと思い、このコースで学ぶことを決めました。
 西田先生は、知識を教えるだけでなく学生のことを考え、見守り、サポートしてくださる先生だと思います。勉強では、私が疑問に感じたことに対し一緒に辞書を引きながら考えてくださり、また進路について悩んでいた際には優しく励ましてくださいました。
 学習においては、疑問に感じることがあれば、解明するまで追求する姿勢が大切です。国際文化課程なので、留学生との交流も多くあります。中国に限らずあらゆる文化に触れ刺激を受けたり、興味を深めたりすることで新たな発見をし、自分の研究したいテーマにも応用していく。この環境を最大限生かすために、自主的に学んでいくことが必要です。
 現在私は、二言語を話せるという強みを生かし、日本語話者に中国語を教えるための研究をしています。両方話せるからこそ、分かることもたくさんありますので、理解を深め、言語のすばらしさや難しさを学んでいけたらと。そうして将来的には、中国の言葉と文化の魅力を日本にもっと広めていきたいです。

○今日、世界で活躍する中国人は多く、中国語を話す機会も多々あります。彼らを理解するには、言語だけでなく文化も知らなくてはなりません。そうしたことから、私は中国語と、中国を含めたアジアの文化を学ぶため、このコースを専攻しました。
 岩手大学には、西田先生のように学生との距離が近く、一人一人親身になって指導してくださる教員たちや、実習や留学などの充実した制度があり、語学と文化、柔軟な考え方を身に付けることができる環境が整っています。
 ちょうど先日、私も一年間の留学が終わり帰国したところです。留学では、実際に現地でさまざまな体験をしていく中で、「こんな良い面がある」という発見も多くありました。テレビではよく悪い部分が報道されますが、その情報は物事の一面を切り取ったものに過ぎません。ちゃんと自分の目で見て、理解していくことが大切だと思います。そういう視点を持つためにも、「なぜだろう」と疑問・興味を持つことはもちろん、考えているだけでなく、問題を解決するために自分で行動することが不可欠です。
 今後は、人と人との関係や物事の考え方など、留学をはじめとした学習を通して学んだことを社会に役立てていきたいと考えています。