人文社会科学部研究室探訪●Part8(vol.2)page1

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准教授 奥野 雅子002
准教授 奥野 雅子003

Profile
OKUNO Masako
東北大学教育学研究科【博士】(2009年)、臨床心理士、薬剤師


人間科学課程行動科学コースの魅力を教えてください


目に見えない心というものを、目に見える行動という面からアプローチする。そこに行動科学の面白さがあるのだと思います

 物質があって、それを研究者が外から見て結論を導いていくのが物理学や化学ですが、それに対し心理学を含め行動科学という学問では、対象者と研究者は同じ人間ですから、完全な客観性を持つことは難しいといえるでしょう。私たちの扱っている分野では完全に正しい答えがないことを前提として、人間とは何かという問いに対し、行動という目に見える部分から特徴を見いだして明らかにしていきます。そういった、解き明かせないところを解き明かしていくという点に行動科学の面白さがあると感じますね。
 新入生に対し、私はよく「人間の心はどこにあると思いますか」と問いかけるようにしており、そうするとほとんどの学生が頭や心臓と答えるのですが、私の心理学的な理解で言うと、心は人と人との関係性の中にあるという捉え方をします。「この人といると楽しい」あるいは「緊張する」などといった心は、その人と自分との間にあるのだと考えるわけです。大学では、皆さんが当たり前だと思っている事柄に対しても疑問を持ち考えさせることで、高校までに培ってきた「知の枠組み」を再構築させていきます。
 ここ行動科学コースでは、それまでの物事の捉え方をがらりと変化させる実践的な授業も多く用意されているため、学生の皆さんはぜひ能動的に学習を進め自分自身を成長させていってほしいです。

臨床心理学とはどのような学問ですか


人は生きていれば必ず困難にぶつかります。臨床心理学とは、その壁を乗り越える手助けをする学問です

 臨床心理学は、人の心はどういうものか、人の行動にはどんな特徴があるのかといった分析を踏まえ、心理的課題を抱える人たちにどのような支援をしていったら良いかということを科学的に考えていく「援助の学問」です。
 発達心理学的に言えば、人は生きていれば必ず課題に直面します。例えば結婚を例に挙げると、異なるルールを持つ男女が一緒に生活していくということですから、無意識にでも意見が一致せずルールがぶつかり合う場面も現れてきます。そうしてお互いのルールを変更し新しいルールをつくる必要が出てきたときに、どう解決したら良いのかという心理的な課題が生まれることになります。壁を乗り越えることで人は進化していくことができるのですが、どうしても自力では難しいという場面も出てくる。そこを支援するのが、私たち臨床心理学に携わる者の役目です。
 ただ、支援について科学的に考えるといっても、物理学や化学のように原因を追及していくわけではありません。人間に関わる問題で原因を探すことは誰かが悪い、あるいは誰かのある行動が悪い、といったように悪者探しをすることになります。しかし、問題は人と人との間で何らかの悪循環が起こっていることで発生します。そこで、この悪循環を断ち切るような行動を見つけることで解決に至ることをサポートしていきます。実は、解決の状態というのはもうすでに起こっているのです。どんな問題の中にも解決の状態はありますので、解決は問題の部分集合といえます。例えばある人が「あの人とうまくいってない」という悩みがあったとします。でも、実際はうまくいっている瞬間もある。それはどんなときかというのを解明していき、その時間を増やすことで解決へとつなげていきます。

講義や研究指導などで気を付けていることはありますか


学問をする上で重要なのは、物事の捉え方を変化させること。私の授業を通して学生に何か変化を感じてもらえれば

 授業の最後にレスポンスカードを書いてもらっています。そして、毎回授業の最初は前回の内容について学生から寄せられた意見や質問、感想などに答えていくという形式で、インタラクティブな授業を行うようにしています。中でも「こうしてほしかったのに」というネガティブな意見は大切にしていて、必ず学生の前で紹介し回答しています。具体的な例では「前回の振り返りが多すぎて、今日の授業が短くなった」という意見があった際に、「率直な意見をありがとう」と感謝の気持ちを話した上で、なぜその授業で復習に力を入れたのかということを説明し、意義や意図を伝えました。学生との意思疎通を積極的に図り、お互いに尊重し合えるような授業を心掛けています。そうした授業を通し、学生に「変化する自分」を感じてもらいたいですね。学問の意義は変化することだと考えており、それまでの物事の捉え方が少しでも変化することにつながればという思いです。
 また、学問をするということは、ある立場に立ってものを考えるということですから、私の話していることは「絶対ではない」ということをどの授業でも伝えるようにしています。「私は臨床心理学的な学問の立場に立って話している」という前提を明らかにしつつ授業を進め、どの立場を採用するかという部分は学生たちに選択してもらうという姿勢です。
 それから私が受け持つ卒論・修論指導や研究のゼミでは、週1回の集まりがあり、学生1名の発表に対しみんなでコメントし合うという形で行っています。そうすることで家族のような絆が生まれ、全員で研究をサポートし合う体制がつくられます。私と学生で1対1のアドバイスというのももちろんありますが、基本的に1人の研究に対し全員で考えていくという方針です。これは私の家族療法という学問的立場に基づいた指導で、ゼミ経営、研究室経営として組織の力を引き出す方法をとっています。真剣に取り組みつつ和気あいあいという雰囲気で研究を進めていく感じですね。

学習を通し、学生はどのような力を身に付けることができますか

 学問とは、生きる力を身に付けるものです。何か問題が起きた際に、それを見ないようにするのか、あるいは受け入れるのかなど人によって反応はさまざまにありますが、やはり私はそうした場面でも自分の思考を柔軟にすることが大切だと考えます。
 分かりやすい例で言うと、事故で右腕が使えなくなった場合、それからの日々は左手しか使えないという状況に対応していかなければなりません。そこで「どうして右手が使えないんだ」と拒むのではなく、自分の中のルールを状況に合うよう変化させて適応させ、前に進むために今するべきことを考えるのが生きる力につながっていくのではないでしょうか。
 課題に直面したときに、まずはその状況を受け入れ次のステップに進むことができるかというところで問われるのが学問の力です。行動科学に限らず、大学での学習を通してその力を身に付けていくことができると思いますし、教員としても「前に進む力」が学生に培われるような指導を目指しています。