人文社会科学部研究室探訪●Part8(vol.2)page2

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准教授 奥野 雅子002
准教授 奥野 雅子003

Profile
OKUNO Masako
東北大学教育学研究科【博士】(2009年)、臨床心理士、薬剤師


「こころの相談センター」でサブカウンセラーとして面接に携わる大学院生に指導されているそうですが、具体的にはどういった指導をされているのですか? 指導をしていく中で、何か発見などもありましたら教えてください


家族療法というシステミックな視点でカウンセリングを進め、学生が独り立ちできるよう実践的な指導を行っています

 実際に心に課題を抱えているクライアントに対し、私がメインカウンセラーとして、大学院生がサブカウンセラーとして面接をしています。こうした取り組みは家族療法を専門とする教員がいる大学で行われているものです。家族療法はシステム的なアプローチを特徴としており、たとえ本人に会わなくても本人と関わっている人、例えば親との面談で解決していくことができるため、不登校やひきこもりといった問題を抱える方のカウンセリングではとても役立つというメリットがあります。本人にどんなことが起きていて、実際にどのように介入していったら良いのかということを大学院生は面接の場で学んでいきます。
 流れとしては、まず面接の前にその回の方向性を決める時間を設けます。1時間ある面接の途中でクライアントに承諾を得て、3分ほど中座して意見交換を行い、面接方針を一致させます。その後、サブカウンセラーからクライアントに現在の状況を俯瞰的立場で伝え、今後の方向性の提示と介入課題などについて話してもらい、私がフォローしていきます。面接後には振り返りの時間を設けるのですが、たまに大学院生が「あのとき、表情が明るくなりましたよね」とクライアントの態度について鋭く観察しているときもあり、とても感心しますね。2人の力の相乗効果で進めていくのが家族療法の面接です。

先生の研究について教えてください


性差を含めた専門家とクライアントとの関係や、介護・発達障害に関する面談方法についても考えていく必要があります

 一つは、専門家のコミュニケーションについて。博士学位論文で研究していたものをさらに掘り下げ、心理臨床家や医療従事者、教師などの専門家がジェンダーについてどのように配慮してクライアントとコミュニケーションをとっていったら良いかということを研究しています。言語的あるいは非言語的なコミュニケーションのあり方は性差やジェンダーで異なっており、専門家の性やジェンダーが臨床現場でクライアントとコミュニケーションする際に支援に影響します。ジェンダーをめぐる問題が起こって支援が困難になるケースが実際にあるため、問題が発生するパターンについて臨床心理士にインタビュー調査等を行い、どうコミュニケーションを変化させていくのが最善かということを研究しています。
 それから、発達障害の子どもたちに対する支援も一つのテーマです。こころの相談センターにもそうした悩みを抱える方たちが多くいらっしゃるので、心理査定を行った上で面接を進め、より効果的なフィードバックのあり方や支援の方法などについて検討しています。

先生にとって臨床心理学とは何でしょうか

 「より幸せになるための学問」であり「笑顔を失っている人にそれを取り戻してもらうための学問」といえますね。私の研究は全体を通してコミュニケーションが軸となっており、その一環として、笑いの生起とそのメカニズム、笑いの効用などに関しても真剣に取り組んでいます。笑いとはいわば意外性が伴うものであり、想定・文脈がはずれるところに生起するというのがメカニズムの一つ。文脈をはずすというのは物事を俯瞰し捉え方を変えるということであり、とても知的な作業です。目の前に苦しいことが現れた場合でもそれをネタにすることで困難を乗り越えられるといった効果が期待できます。例えば研究がうまくいかなかったとしても、みんなで笑い合いネタにすることで「次は頑張ろうかな」と前向きになる。そういった意味でも、私のゼミでは発表する当番の人が必ず、研究とは関係ない「前座トーク」をしています。まず近況報告等の気楽な話で笑いを取った後、専門的な話に切り替えるという進め方です。学生からは、「前座トークのネタを考えるほうが大変で、研究発表どころじゃないですよ」と言われることもありますが(笑)
 学問というのはどの分野であっても人が幸せになるために追及するものです。例えば、「新しい薬をつくる」とか、「ロボットをつくる」といった学問でも、なぜそれをするかは究極的にはそれらを媒介にして人が幸せになると考えるからです。
 一方で、臨床心理学というのは媒介が入らずダイレクトに人の幸せを追求していけるものだと思っています。

現在、人間科学課程行動科学コースを希望している高校生の皆さんにメッセージをお願いします


自分ではコントロールできない大きな流れに乗り、今できることをしながら進んでいく。そうすることで、どんな道でも切り開けるのではないでしょうか

 実は私は薬学部出身で、薬剤師を13年半やっていたという経歴があります。患者さんに薬を渡したり、相談に乗ったりということをしていたのですが、その中で患者さんを助けるには心理学が必要だと思うようになって。最初は独学で心理学の勉強をしていました。そんな折に、夫のニューヨークへの転勤が決まり渡米。しばらく薬剤師を休職しアメリカの大学院で臨床心理学を専門に学びました。帰国してからも薬剤師として働きながら東北大学大学院に入学し家族療法を学びました。臨床心理学を学ぶことは自分のものさしを変化させることですから、そのことで自分が見る景色や世界が変わっていきます。つまり、より幸せになるのです。
 長い人生の中では、自分ではコントロールできない大きな流れというものがあります。その流れに逆らわず、むしろその流れに乗って、今できることを無理せず頑張り続ければ、どんな道でも切り開けるということです。
 岩手大学の行動科学コースは、そうした人間の生き方を含めた行動について考察を重ね、どうしたら幸せになれるのかを学問的に追求できるところですから、そういった事柄に興味のある方には、「学問によって今見ている景色が変わり、ひいては自分自身も変わる」ということを伝えたいですね。



<学生のコメント>

○もともと人から相談を持ちかけられることが多くあり、同じ話を聞くなら本人にとってより役立つアドバイスがしたいと思い、臨床心理学を専攻しました。
 人間科学課程では、一つの学問にこだわらず幅広い分野の知識を吸収することで、自分の専門分野をより豊かにすることができます。例えば何か悩みを抱える人に対して面談を行う際、臨床心理学に加え社会学の知識も身に付けることによって、その人の背景も踏まえた面談を行うことができ、相乗効果でより充実したサポートにつなげられます。そのため、専門分野以外の授業を受けることができるこの環境を活かし、枠にとらわれず幅広く学んでいくことを心掛けています。
 奥野先生はユーモアにあふれており、授業も興味をかきたてられるテーマが盛りだくさんで、他学部から聴きに来る学生もちらほら見受けられます。現在私は臨床心理士を目指しており、大学院への進学も決まっているため、これからも先生の授業で得た知識・経験を深めていきたいです。

○行動科学コースの実習・演習の授業では、班ごとにアンケートを作成して集計をとったり、ロールシャッハテストや鏡映描写など心理学の実験を何種類か体験してレポートを書くということをしています。学生同士のやりとりが多く、みんなとても仲が良いですよ。
 奥野先生の授業は単純に知識を得るということだけでなく、実践的な考え方を培うことができるものです。例えば大学院の授業である障害児童心理学では、各障害の特徴や対処法に関する知識のほかに、障害を持つ本人の気持ちから家族の大変さまで掘り下げて教えてくださるので、早く臨床心理士として現場に出たいという思いも強まります。
 これからも知識をさらに磨くことはもちろん、専門家としての責任や他職種の方との接し方なども考えていき、困っている方が少しでも元気になれるよう支援していきたいと思います。