人文社会科学部研究室探訪●Part8(vol.3)page1

准教授 寺崎 正紀001
准教授 寺崎 正紀002
准教授 寺崎 正紀003

Profile
TERASAKI Masanori
信州大学工学部(1997年)、筑波大学理工学研究科(1999年)【修士】、筑波大学化学研究科(2002年)【博士】


先生はこの度、静岡から岩手大学に赴任されてきたそうですが、どのような思いでいらっしゃいますか


豊富な自然を生かしながら、枠にとらわれずさまざまな研究をしていければ

 東日本大震災の折、一度岩手に環境試料を取りに来たことがあります。そこで親近感と興味を持ったことが、ここで研究をしようと決めたきっかけの一つでした。私の扱っている分野は環境化学ですので、自然が豊富な岩手は研究に適した場所であるともいえます。以前の勤務地であった静岡も自然に恵まれている場所です。しかしながら岩手には岩手の特徴があり、例えばここの川は静岡に比べて長いため、上流から海の方まで調査のやり甲斐があります。流域全体を調べることで、そこに住んでいる人の生活状況も少しずつ見えてきますから、そこからまた新たな発見もあるのではないかなと。
 またこの地では川にサケが遡上してきますので、化学物質が魚に与える影響も調べることができれば面白いですね。サケの曝露については世界的にもそこまで研究が進んでいないので、私が調査することでさまざまなことを明らかにしていき、どういった状態の河川であれば魚がより帰ってきやすいのかを行政等に提案できればと考えています。

環境科学コースの授業内容についてお伺いしたいのですが

 私が今受け持っているのは「環境基礎化学」と「物質の世界」の二つです。
 「環境基礎化学」は高校から大学への橋渡し的な役割を持つ授業で、高校で習うような化学に加え大学基礎レベルの内容を扱います。そして「物質の世界」は特に化学物質に着目した地球環境の話で、かつて使用されていた農薬等の汚染物質が土壌にどういった形で残っているのかということや、フロンによるオゾン層破壊のメカニズムなどに関する事柄を教えています。
 環境科学コースは人文社会科学部の一つですから、学部でいえば文系です。しかしながら当コースでは、一般的には理工学部系で扱うような実験についても踏み込んで行う点で非常に魅力的だと思います。
 例えば実際に私が担当している授業では、「カラムクロマトグラフィー」という混合物を分離する実験を行います。文系学部の学生が理系学部でやるような学習をすることは他学ではあまりないことなので、これは貴重な体験です。学生たちは、そこまでの意識を持っていないと思いますが(笑)
 化学をはじめとした環境への知識を深めることで、地球上にある化学物質は循環しているのだということを意識することができます。我々が日常生活で使っている「物」は捨てれば終わりではなく、残骸なり痕跡が残るといった仕組みは知っておいた方がいいのかなと。そうすれば、日常を見る目も変わってきますよね。ただの「物」だったものが「循環する物」という広い視点からも捉えられるようになってくるのですから。

ほかにはどのような授業がありますか


文・理の垣根を越えた学習で培われるバランス感覚は、どんな場面でも役立つものです

 私の受け持つものではないのですが、「環境科学演習」という授業の中で、八幡平市にある硫黄の中和処理施設へ見学に行くというものがあります。これは廃鉱から流出した硫黄を中和する施設のメカニズムを、同じように実験室に戻ってきてからやってみる、あるいはその川の水を調べてどういうことが分かるかを考えるもので、文献の調査までするという点が面白いですね。八幡平市のケースに限らず、過去に日本でどういう事例があったのかを文献で調査する授業も行われています。
 文献で過去の処理施設や公害に関する調査をすると、これまで知らなかった問題が見つかることもありますから、八幡平市のケースとどう違うのか、行政の対応はどう進められていったのかなど、そういう面も含めて調査をすることは大変有意義なことです。文系的な視点と理系的な視点が両方混ざった講義をしていくことで、予想外の発見もあるのではないかと感じますね。
 ここではそういった形で、文・理どちらの科目も基礎的な部分から積み重ねていくことができ、幅広く学べる点でも非常に充実した講義を受けることができます。結果として、例えば何か政府が政策を立てる場合、円滑な経済活動という面だけでなく、長期的な目線で見た環境への影響も考慮する力が身に付くわけです。もちろん、自分自身がその政策を立てる立場になることもあるでしょうし、ここで培ったバランス感覚はあらゆる場面で役立てていくことができます。

講義で気を付けていることは何ですか


情報は常に更新し、新しい内容や視点を取り入れた授業を心掛けて

 基本的な原理等は変化しませんが、科学は日々進化しており、情報は次々と更新されていきます。そうした中で、私の講義も常に新しい視点から、その時々で話題になっている内容を取り込むようにしていきたいと考えています。例えば電池一つをとっても、5年前の話が非常に古くなるような競争の激しい世界ですので、最新の製品等も紹介しながら進めていければと。
 巷では真偽が疑わしい情報があふれています。否定するわけではないのですが、例えば「マイナスイオン」という言葉は、化学の専門用語に聞こえますが、そのような言葉はありません。知識があれば、そういったものはないと知った上で購入する製品を選ぶことができるのかなと。あるものが体に良い、あるいは悪いといった話もそうです。それは科学的根拠なくして議論できないものであるのに、知識がなければ誰かが言った言葉をそのまま信じてしまいます。やはり自分の考えを持ち、判断できる最低限の知識は必要です。学生たちにはそういった力も身に付けていってもらいたいですし、私もそれを目指して講義を行っています。やはり何をするにも、知っていなければできないことは多いですから。