人文社会科学部研究室探訪●Part9(vol.1)page1

教授 白倉 孝行001
教授 白倉 孝行002
教授 白倉 孝行003

Profile
SHIRAKURA Takayuki
北海道大学理学部物理学科(1980年)、東北大学大学院工学研究科応用物理学専攻(1985年)【博士(工学)】


白倉先生は岩手大学に勤められて何年になりますか

 私がここに赴任したのは平成5年で、人文社会科学部に地域文化・社会科学に続く第3のコースとして環境情報ができたときです。さらに平成12年に改組があり人間科学課程・国際文化課程・法学・経済課程・環境科学課程の4課程制になり、私が所属していた環境情報コースの一部の先生は、人間科学課程所属となりました。また来年度改組する予定で、今の人間科学課程と国際文化課程が一緒になり人間文化課程に、今の環境科学課程と法学・経済課程がまとまり地域政策課程になり2課程という形で生まれ変わります。そのため、改組後私が受け持つのは人間文化課程です。

先生が担当されている授業について教えてください


統計的手法は社会学や心理学でも多用されます。多次元で、より正確なデータを得る方法を考えましょう。

 私が担当しているものの一つに、統計学があります。これは情報科学的な学習ではもちろん、人間を対象とし仮説を立てモデルをつくる社会学や心理学においてもひんぱんに使われるものです。行動科学を例に挙げると、人間相手にアンケートをとったり心理学実験を行ったりすることでデータが出てくるわけですが、そのあいまいなデータを処理し自分の立てた仮説が正しいかを判断するのに統計学は必須の学問といえます。その統計学の基礎から応用までを幅広く教えていく形です。
 さらにもう一つ、情報統計科学というものもあります。例えば我々がどうやってものを分類しているのかとか、あるいは認知したり判定したりしているのかとか、そういったことを考える際、統計的手法が有効になってきます。従来の手法では、グループ化したり多くのデータを縮約する主成分分析を行ったりするのですが、それだと単なる足し算の「線形」データに過ぎませんでした。しかしながら人間の脳をソフトウエアで再現し、その神経回路に則りデータを分類するモデル「ニューラルネットワーク」等の統計的手法を用いることで、より高次元で複雑な「非線形」のデータが得られます。このときに使われるのが情報統計科学で、私はそのモデルに関する基礎研究「情報統計力学」を専門にしており、人間が判断する仕組みを解析するモデルを考えることで、多次元のより正確な結果を導き出すことができる統計的手法を構築できないかと考えている次第です。

「情報統計科学」の魅力をお伺いしたいのですが


未知の領域があり、新たな発見のしがいがあるところが情報統計科学の魅力の一つ。学生たちにも、その面白さを分かりやすく伝えたいです。

 非常に学際的で、新しい発見ができるというところが魅力です。例えば人工知能に関わる最近のホットな話題として「ディープラーニング」があります。これは先ほど挙げた、人間の神経伝達方法に則り情報を分類する「ニューラルネットワーク」の考えを基本とし、さらにネットワークを重ねることで人間の設計がなくてもコンピュータ自らが精度よく情報分類を行う仕組みのことです。今ディープラーニングの分野では、コンピュータが人間の脳と同じようにものの概念・ジャンルを認識することに成功したと発表しているんですよ。果たして本当にそれで認識した概念が使われているかについては疑問の余地がありますが、こうした発見によりまた新たな道が開けてくるわけですから大変興味深いです。自分が開拓できればもっと感動的ですしね。
 このように魅力的な分野なのですが、講義においてはどう説明していくかという問題があります。これは数学を使う場面が非常に多い科目であり、学部として見れば文系の学生さんたちが多いので、それを苦手とする人たちへいかに分かりやすく説明できるかが課題です。早口になりすぎるところがあると自覚しているので、あまり焦らずゆっくりと進めていきたいと思います。
 それ以外の工夫としては、数学に苦手意識を持つ学生に対し脳科学的なアプローチを推奨しています。計算できるようなモデルをつくる前段階として、例えば犯罪者についてなぜ社会性が失われてしまうのかを脳科学的に考えてみようという試みをしてみるわけです。そうした問題を考えていき、ゆくゆくは学生たちも計算機上でシミュレーションできるようなレベルまで持っていってくれればと。
 私の授業自体、よりよいものにしていきたいですし、学生たちもやらされているという雰囲気ではなく「新しいことを知ることができたらめっけもん」くらいの気持ちで、積極的に学習を進めていってくれればと思っています。分からないところがあればどんどん質問してほしいです。

ここでの学習はどういう場面で生かしていけますか


発展的な内容を学ぶにしろ、他のジャンルを扱うにしろ統計学の基礎の部分が非常に重要となってきます。

 1年生に教えている内容は本当に基礎の部分になりますので、ここで出てくる概念を身に付けることで次のステップに上がるときやほかのジャンルで統計学を用いるときなど、さまざまな場面で恩恵があります。1年生のときの話を全て分からなければいけないというわけではありませんが、理解していればそれだけ後々の研究がスムーズになっていきますので。実際の研究でも絶対に必要な知識であるのはもちろん、卒業してからも例えば社会調査士などは統計学が必須の仕事ですから、実際職に就いたときも基礎から理解することが大切だと思います。
 具体的な進路の話をすれば、やはりSE(システムエンジニア)の職に就く人が多いですね。それから公務員や銀行で活躍している卒業生もいます。SEや銀行ですと、システム開発や地図関係の企業などプログラミングの知識を生かす感じです。先に述べたニューラルネットワークの話にしても、新たな統計的手法を考えるに当たってはだいたいプログラムを組んだ上でシミュレーションをしていくことになりますので、情報関係の職業では直接的な力になるのではないでしょうか。
 公務員では一般職に就くことが多くSEほど関係はしていないでしょうが、何を扱うにしても基本的な知識ですのでさまざまな場面で役立つと考えています。