人文社会科学部研究室探訪●Part9(vol.1)page2

教授 白倉 孝行001
教授 白倉 孝行002
教授 白倉 孝行003

Profile
SHIRAKURA Takayuki
北海道大学理学部物理学科(1980年)、東北大学大学院工学研究科応用物理学専攻(1985年)【博士(工学)】


先生のご専門とされる研究について教えてください


物理的な話が人文科学的な話につながり、現在は物質を扱うだけでなく脳への理解を深める研究も進めています。

 私は工学部の応用物理学科出身で、これまでずっと物質系の理論的なシミュレーションを専門に扱ってきました。中でも力を入れているのがスピングラスの研究です。結晶をつくる前に原子がバラバラになって固まったものをガラスといいます。それに似たもので、結晶の配列にはなっているもののそこに乗っている小さな磁石「スピン」の相互作用がランダムなせいで、バラバラな状態でスピンが固まってしまっているものをスピングラスといいます。前任校で工学部にいたときはスピングラスの相転移について研究を行っていましたが、あるときこの物質が脳におけるニューラルネットワークの連想記憶に関係しているという話が出て、以降はそちらの領域にも携わることになりました。
 脳内のニューロンはシナプスにより互いに連絡を取り合っているわけですが、それを簡単なコンピュータ上のモデルとして適用すると、スピングラスにおけるエネルギーの安定状態と似た性質を示します。例えば私たち人間は崩れた字を見ても正しい文字を想起することができますが、この自己想起のモデルがまさにスピングラスの多谷構造エネルギーモデルと合致するわけです。人間の記憶は一つ一つ格納されているのではなく、多数のニューロンの発火パターンとして把握することで想起しているという考えで、学習においても連想記憶が関係してくるというのが非常に衝撃的でした。このことがきっかけで人文科学的なジャンルを取り扱う岩手大学に来ることになり、現在に至ります。今はスピングラスそのものに関する研究と併せ、社会学や応用倫理学に関係する分野についての探求も深めています。

これから岩手大学で統計学を学びたいという高校生の方にメッセージをどうぞ


改組に当たり文系的な部分が多くなっても、統計学の考え方を培うことは将来的に強い武器となるでしょう。



私のゼミ生たちも各自興味のある分野を徹底して掘り下げています。好奇心があれば新しいものが見えてきますので、ぜひ挑戦してみてください。

 来年改組するということで、人文社会科学部はおそらくより文系的な色彩が強い学部になると思われますが、これからは文系的な学問といえども統計学が関わってくる場面が多く出てきますし、モデルを考え計算機実験を行うというのは非常に有効な手段になりますので、この分野を学ぶことで強い武器を身に付けてほしいです。
 それから、統計学を通し人間学や応用倫理学、社会学などさまざまな分野の知識を得ることができるほか、まだまだ簡単なシミュレーションで有益な結果が出てきそうな分野なので挑戦のしがいがあります。ぜひ今のうちに発掘できるものは発掘していってほしいですね。私のゼミ生にも一人新しい発見をした人がいて、「間接的な互恵モデルの中でいかに協力関係が生まれるか」というテーマで現在学会発表に向け取り組んでいるところです。どんな条件がそろえば我々は協力して社会を発展させていけるのかということについて、最近注目されているものに間接的互恵性モデルというのがあって。それは二次のモデルだったのですが、そのゼミ生に「じゃあ三次でやってみたらどうか」と提案しシミュレーションを行ってみたら、果たして興味深いものが出てきたんです。だからといってすぐに実生活で役立つという話にはならないのですが、こういった基本的なことが分かっていかないと何も始まりませんので有意義なことだと思います。ここをさらに詰めていけば本当に面白いものが発見できるんじゃないかなと。
 それからほかのゼミ生では、自分自身が共感覚を持っていることからそこに興味を抱き、研究に取り組んでいる人もいます。共感覚とは、例えば文字や音に色を感じるというように一部の人に表れる特殊な知覚のことです。これは心理学や情報科学などに関係する話で、そのゼミ生は特に数字を配列で認識する数字列形を取り上げ、ニューラルネットワークのモデルで再現する試みを3年生後期のときに取り組んでいました。進級した後も研究を続け、今度は情報科学的なレベルに留まらず社会学的なアプローチもすることになり、実際に学生たちの中で共感覚を持つ人はどれくらいいるのか、認知心理学の先生にも協力を仰ぎ調査を行っています。
 以上のようにこの分野にはさまざまな可能性があり、興味があればどんどん切り拓いていくことができますので、ここに入学したいと考えている方はぜひ好奇心を持ちチャレンジしていってください。



<学生のコメント>

○大学を選ぶときは、まだどんな勉強をしたいかを決めていませんでしたが、いろいろと調べていく中で自分が心理学や哲学に興味を持っていることに気が付きました。岩手大学では、一つのコースを選んでも幅広い分野を勉強でき魅力的です。情報系の学問に魅力を感じたのは、プログラミングの授業を受けたときでした。何もないところから、パソコンで動くアプリケーションをつくるというのが面白いと感じて。白倉先生のゼミに所属しアドバイス等をいただきながら学んだプログラミングの知識を生かし、集団内の協力関係に関する研究を行いました。現在学会発表の準備を進めているところで、今後よりよい協力のあり方が分かっていけばいいなと考えています。
 統計学を含め情報系の学問を勉強していく上で大切なのは、やはり文・理にとらわれず広い視野を持つことです。ただそれだけだと器用貧乏になってしまいますので、自分の道を1本決めた上でさまざまなことに挑戦していくことが求められるのではないかと思います。

○この分野は複雑で少し理解が難しいのですが、白倉先生が分かりやすく教えてくれるため問題ありません。2年生のとき、演習で先生に担当していただき、その際扱ったのが脳科学でした。それから私は人間の脳についてより深く知りたいと思うようになり、現在は犯罪と脳障害との関係について学習を進めているところです。これは、人間の行動が脳とどのように関わりを持つのかを考えるというもので、少し生物学的な分野に入ってきますし、行動科学という意味では人文系の領域にも関係するものです。先生は専門が工学ですので少し専門外のところも出てくるのと思うのですが、そういうところも一緒になって考えてくれるため、非常に頼りがいがあります。
 今私が学んでいることは、すぐ何かの役に立ったり、社会に出たときに直接生かせるというものではないかもしれません。しかしながら、例えば何か一つの事象に対し、多くの方向から分析する見方を培うことはできます。プロセスを重視することが大切だと思いますので、今後もその姿勢を貫いていきたいと考えています。