人文社会科学部研究室探訪●Part9(vol.2)page2

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教授 齋藤 博次003

Profile
SAITOU Hirotsugu
静岡大学人文学部人文学科英米文学(1979年)、筑波大学文芸・言語研究科アメリカ文学(1985年)【修士】


先生はユダヤ系の文学研究をご専門にされているということでしたが、その具体的な内容や魅力、その道に進もうと思ったきっかけなどについてお伺いしたいです


大学生のときユダヤ系文学に熱中しました。今後も歴史的・政治的な背景とともに研究を進めていきます。

 大学で初めてアメリカ文学を学んだとき、それまで日本文学に親しんできた私はものすごく違和感を感じました。日本文学とアメリカ文学って、水と油みたいなところがあって、非常に入りにくいんですよね。でも嫌々ながらもやっていたら、そのうち面白くなって。そんな中でたまたまユダヤ系作家バーナード・マラマッドの本を読んだら、日本人が親しみを持てる内容で、夢中になりました。当時まだ無名作家でしたから、先生には卒論で書くのを止められましたけど。大学院ではユダヤ系の中でもナンバーワンの人気を持つソール・ベローを勉強しました。そうした流れで、ずっとユダヤ系の文学をやってきました。
 ユダヤ人は最近は政権に近づいて主流になってきましたが、社会から疎害されてきた歴史があります。疎害されていながらもアメリカ社会に同化していったということがあり、そうしたジレンマがユダヤ系作家の作品の中に現れています。それに対し、同じくアメリカ社会から疎害されながらも、同化するのではなく反抗の道を歩んだのが黒人文学です。黒人系作家はユダヤ人と違い「抑圧」という言葉を使い、対立姿勢をとります。そうした文化の対比も面白いところだと思いますね。
 具体的な研究としては、昨年まで「冷戦知識人」をテーマにしていました。冷戦以前のアメリカの知識人や芸術家というのは、基本的に自国の政治などに対し批判的な面を持っていたのですが、第二次世界大戦が終わり1950年くらいになると、アメリカを擁護する立場に移っていくんですね。1929年に大恐慌(ブラックマンデー)が起こり、その前後で共産主義運動が10年間ほど盛んになります。そのとき社会主義・共産主義に関わった人たちの中にはユダヤ人が多数いて、ユダヤ系文学と共産主義が結びつく時期がありました。しかしながら、そのうちにユダヤ系知識人は共産主義の人々が考える文学のあり方と自分たちの文学観が全く違うことに気付くことになり、共産主義とは別の道を辿ることになったという経緯があります。もともとは文学と政治を結びつけようとしていながら、文学の美的価値みたいなのを求めて共産主義の人たちと袂を分かちケンカしていくんです。1930年代に出てきた共産主義者のユダヤ系知識人が、最終的に50年代になると冷戦構造を担う知識人になっていった―そのプロセスを追う研究を3年ほどやっていました。
 それから現在力を入れて取り組もうとしているのは、「ベトナム戦争」です。ベトナム戦争をテーマとした映画はたくさんあるのですが、ハリウッド映画は本当にベトナム戦争の真実を描いてきたのかを考察していこうと思っています。ベトナム人が制作したものとアメリカ人が制作したものとを見比べてみたいんですよね。ドキュメンタリーフィルムなど、なかなか手に入りにくい資料もあるため、けっこう大変です。
 それからもう一つ、まだ考えている途中ではあるのですが、『カッコーの巣の上で』という小説について歴史的に迫ってみようかと思っています。単なる作品分析だと面白くないので、アメリカにある精神病院の歴史を辿りながら調べていきたいです。アメリカの精神病院はどういう運営をされてきたのか、実際の歴史を踏まえた上で作中の病院の描写と対比しようと考えています。

これから岩手大学でアメリカ文学・文化を学びたいと思っている高校生の方に、メッセージをお願いします


大切なのはとにかく楽しむこと。難しく考えず読みたいものを読むことで、文学の扉は開かれます。

 毎年、文学に親しむための公開講座「高校生のための欧米の文学」に参加していますが、その中でいつも言っていることは「とにかく面白いと思ったものをたくさん読んでください」ということです。講座では毎回扱う作品を変え、それを紹介しながら「アメリカ文学ってこんな面白さがあるんだよ」ということを話しています。さまざまな本を読むことで、作品を比較し理解を深めることができますし、自分の考え方に自信が付くようになります。数冊読んだだけの人より、やはり20冊、30冊読んだ人の方が、大学に入って文学を選択したときも力になってきます。
 日本でもアメリカでも、どの国の文学でもかまいません。例えば高校の授業で誰かの作品を読んで面白さを感じたら、その人のほかの作品も読んでみる。そうすると作者についても具体的なイメージをつくっていくことができます。研究のやり方なんていうのは後でやればいい話で、まずは好きなことを突き詰めていけばいいんです。理屈をこねる前に、まずは読んで楽しんでみること。文学はそもそも面白いものなのですから。



<学生のコメント>

○高校生のときのアメリカ留学がきっかけで、英語やその文化について強い興味を持つようになり、この分野を専攻しました。実際現地に赴き、文化に触れてみることで、自分とは全く異なる考え方や感じ方をする人がいるのだと実感し、それまでの価値観が良い意味で覆されたんですね。そういう体験もあり、大学ではアメリカの文学や文化を学問的に深く掘り下げてみたいと思いました。
 齋藤先生の授業の中で一番印象に残っている「ディズニー映画論」では、作品を通し差別意識について考えることができます。ディズニー映画のどこが問題なのか、それに対する批判を受けて映画がどのように変わってきたのかなどを知ることができ、非常に興味深いです。その授業の影響もあり、現在はアメリカ先住民の差別問題について調べています。卒業後は市役所に務める予定ですので、大学で身に付けた考え方を生かし、マイノリティの人の意見にもしっかりと耳を傾け、どうしたら誰もが気持ち良く生活できるのかを考えていければと思っています。

○高校生のときに世界史や英語の授業で知った英語圏・欧米の文化をもっと知りたいと思い、この欧米言語文化コースに進もうと考えました。アメリカは多様な民族の文化が混じり合い共存している国ですので、その点が非常に魅力的です。齋藤先生の授業は一つのテーマを設定して発表する形式が多く、ほかの学生が興味を持っている分野にまで知識を広げることができます。学習を進める上では、まずは固定観念を捨てることが大切です。今、卒論でアメリカの銃問題について研究しているところなのですが、銃規制に反対する意見もけっこうあるんですよね。日本人の感覚では、「銃なんてない方がいい」というのが一般的だと思うのですが、アメリカ人の立場を理解するには、自国の文化を超えた視点を持つ必要があると感じています。
 私は公務員への就職が決まり、労働関係の仕事をすることになったのですが、文化を学ぶことで多様な考え方を身に付けることができましたので、相手のさまざまなニーズに応じた見方・考え方ができるという意味で、この力を生かしていけるのではないかと考えています。