人文社会科学部研究室探訪●Part9(vol.4)page1

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准教授 塚本 善弘003

Profile
TSUKAMOTO Yoshihiro
愛知大学大学院文学研究科地域社会システム専攻(1994年)【修士】、同(1998年)【博士後期・単位取得】


岩手大学に勤められて何年になりますか

 岩大に赴任したのは2000年の春で、環境のあり方や環境問題について文理融合に基づき総合的・学際的に学んでいく環境科学課程・環境科学コースが設けられたときのことです。それ以前は、人文社会科学部には環境情報科学コースがあり、環境関係では生物学や化学、物理学など、ほぼ自然科学系を専門研究分野とする先生方で構成されていました。
 確かに従来は、環境破壊や汚染といった環境の悪化現象―環境問題は、自然科学分野の問題と思われがちでしたが、それは単なる自然界の問題ではありません。人間がつくり出した文明のあり方や社会生活に関わって生じる問題であり、社会の仕組みや人々の意識、価値観やライフスタイルを変えていかない限り、環境問題の解決は困難です。環境のあり方に関しては理系分野だけでなく、問題の実態、その背景や解決策などに迫る文理融合型の考え方で総合的・学際的にアプローチをしていくことが求められます。ちょうど1980年代後半~90年代前半に、地球温暖化やオゾン層の破壊に代表される「地球環境問題」が登場し社会的注目を浴びていくことも相まって、90年代半ば頃にかけ各分野で、徐々に専門的な研究の体制が整ってきたという流れがあります。環境とそれに関連する開発のあり方等について専門的に研究する人が、社会学も含め文系諸分野で増えていきました。
 そうした社会的動向の変化等も踏まえ、岩手大学でも法政策や経済学、社会学、倫理学等の立場から環境のあり方や環境問題を研究・教育するスタッフを新たに迎えることになり、私も環境社会学分野の担当教員として赴任してきたという次第です。その後15年余りにわたり、岩手県をはじめとした地域レベルの具体的な環境問題を中心に、文系・理系多様な分野の観点から学際的かつ体験的に学べる演習科目も含め、総合的な環境科学教育を行ってきました。

改組後のカリキュラムについて、その特徴を教えてください


八幡平市の旧松尾鉱山水質汚染について、フィールド視察や北上川上流での河川水サンプル採取・測定なども行っており、学際的・体験的な学習ができます。

 これまでの環境科学課程・環境科学コースにおけるカリキュラムの特徴は、文理融合型のカリキュラムであることと、社会学系の複数の調査実習科目や、生物学のフィールド実習科目、化学・物理学系の実験科目など演習・実習・実験系科目を多く配置してあること、高校で文系クラスだった学生でも、理系分野の専門基礎的なところから分かりやすく学べ、逆に、高校のとき理系クラスの学生でも、文系分野を深く学べることなどが挙げられます。実際、高校で理系クラスだった学生が環境科学課程3年生以降、文系分野の研究室に所属し卒業論文を書き上げたり、その逆パターンも少なくありません。学生個々が自身の興味・関心のある分野を中心として多様に学ぶことができ、また、学年定員が30名という小ぢんまりとした課程・コースであるため、学生同士の距離だけでなく学生と教員との距離も近い傾向にあり、学生同士が助け合いつつお互いに刺激を受けながら学んだり、研究に取り組んだり、担当教員から指導を受けやすかったり、相談しやすいという利点もあったのではないでしょうか。
 新年度の全学的な学部改組により、環境科学課程担当だった自然科学系分野の先生方のうち、物理学と数理科学系のスタッフが全員、新たにできる理工学部に異動することになり、また人文社会科学部の方でも、これまでの環境科学課程の残る6つの分野のスタッフと法学・経済課程の先生方が一緒になり、新しくできる地域政策課程を担当することになります。その中に新たに設けられる5つの専修プログラムのうち、私は、環境共生専修プログラムのカリキュラムを中心に組み込まれた環境社会学分野の科目を主に担当する形です。
 新しくできる環境共生専修プログラムのカリキュラムは、一定程度までは、従来の環境科学課程・環境科学コースのカリキュラムを継承しており、文理融合型であることと、「環境科学演習」等の演習科目や実習・実験系科目を地域政策課程内のほかの法学・経済学系分野を柱とした4つの専修プログラムよりも多めに配置し、「環境社会調査演習」「環境社会調査実習」「環境科学実験」などについて体験的に学べるという特徴は、現課程・コースから“遺産相続”しています。しかし、自然科学系・理系の所属スタッフの数や分野が減るため、これまでより文系的な色彩・要素が強まる形となり、どちらかというと文系的観点を中心に環境のあり方や環境問題について学びつつ、生物学・化学系の研究をすることもできるといった形態になっていくのではないでしょうか。
 また、地域政策課程では、環境共生専修プログラムを主専修とし、環境を中心に学ぶ学生であっても、従来の法学・経済課程の科目、すなわち法学や政治学・行政学・経済学・経営学等の分野の科目も、これまでより多く履修することが可能になりますから、環境科学系の科目に関連するこれら社会科学諸分野の科目を履修することで、環境経済・環境政策・環境マネジメント等についての知識・能力も修得することができるといった、これまでとは異なる利点があるともいえます。

環境社会学とはどんな学問なのでしょうか


環境社会学では、自然環境の変化について、人々の生活との関わりなどを考えながら、これらが相互に影響を与え合うプロセスを解明していきます。

 環境問題は、近代社会が生み出した最も深刻な問題の一つであり、社会の仕組みと深く関わって生じています。そのため、社会のあり方や我々1人1人のライフスタイル自体を変えていかない限り、解決することが困難です。社会学の一分野である「環境社会学」では、身近な地域や国家間、地球規模まで、さまざまなレベルで生じている環境問題について、問題が発生する社会的メカニズムを、現代社会の仕組みと人々の意識や行動のあり方を具体的事例に即しながら総合的・多角的に研究・分析し明らかにすることで、問題解決の方策を提示していきます。環境社会学の研究領域・テーマは非常に幅が広く、例えば、環境科学課程の8つの教育研究分野の中でも、最も卒業論文等の研究で扱い得る範囲が広いといえ、一言ではとても言い表せないですね(笑)。
 環境や開発に関わる問題の背後にある社会的構造・メカニズムを明らかにし、問題解決策や関係主体間の連携・協働を可能にする条件などを探っていくというのが代表的な研究ですが、ほかに「環境共存の社会学」というものもあります。これは、近年注目・再評価されている里山・里川・里海やコモンズなど、身近な自然環境を利用しながらも破壊し尽くしたりしないように保全していく形で“共生・共存”してきた地域の人々と、身近な自然環境・自然資源との関係性や、“共生・共存”を支えてきた地域社会の人間関係・集団・生活のあり方・生活の知恵の特徴、それらの変容状況などを分析し、今後の環境保全・再生の方策を探るというものです。さらに、人々が環境配慮行動に促される条件を探る「社会的ジレンマ」論の観点からの研究や、環境配慮の意識がどのように形成され、意識が行動へと発展する要因はどういったものなのかを明らかにする社会心理学的研究等々、バラエティに富んでいます。
 このように、環境社会学分野の研究の中で、これまで扱われてきた研究領域・テーマの幅は極めて広いため、私が担当している環境社会学系の2年次以降の専門・講義科目だけでも、「環境社会学Ⅰ」「環境社会学Ⅱ」「持続可能な社会論B(南北問題と環境)」(新課程では「国際開発と環境・貧困」に名称変更します)、そして環境NPO・ボランティアに関する社会学的研究を扱っている「環境社会学特講」があります。「環境社会学Ⅱ」等では、福島原発事故をめぐる考察や「リスク社会」「リスク・コミュニケーション」のあり方なども取り上げています。また日本国内の事柄だけでなく、開発途上国の開発・環境のあり方や、環境問題と密接に関連している貧困の問題、先進国である日本社会と開発途上国との関係性なども、授業で学ぶことができます。
 実習系2科目を含めると、単独担当の講義・実習系科目が全部で6科目あり、環境社会学分野だけでも、かなり体系的に幅広く学習することが可能なカリキュラムになっています。28年度以降入学生も同様の予定ですので、ぜひ幅広く授業をとってみてください。

実習系科目では、どういったことをするのでしょうか

 伝統的に社会学分野では、解明したい現象に関する社会的現実を把握する方法として、現地での関係者に対するインタビュー・資料収集等を行う「フィールドワーク」やアンケートなどの社会調査に基づき、貴重な情報・データを集め、それらを科学的に分析する手法が重視されてきました。それは環境社会学でも同様で、こうした手法を使いながら学習を進めていきます。
 社会調査では収集したデータのまとめなどを行うため、コンピュータへの入力・集計、分析作業などに一定の時間を要し、やや手間がかかるため、面倒な作業のように感じる人もいるようです。しかし、この学習は、社会のあり方や人間の行動・意識がどのような特徴を持っているのかを明確に知ることができたり、新たな気づきがあったりするケースも少なくないという点で非常に面白いですし、特にフィールドワークの場合、調査の過程でさまざまな人に出会い話をすることができるという点も魅力的ですので、興味のある人は積極的に取り組んでみましょう。
 環境科学課程・コースのカリキュラムの中には、2~3年次に、環境問題に関わる社会調査の基礎的理論・手法を学び、学内でアンケート調査を行う科目「環境社会調査基礎」と、学外でのアンケート・聞き取り調査等で、地域環境問題の現状や人々の意識・行動について分析する本格的な実習科目「環境社会調査実習」を設けており、「環境社会調査基礎」は例年、課程の半数~2/3位の学生が受講しています。社会調査の面白さと作業ノウハウを学べる貴重な機会となっており、人気です。2科目とも、地域政策課程の環境共生専修プログラムでも継続開講予定ですが、「環境社会調査基礎」は「環境社会調査演習」に名称変更されます。
 なお、この2科目以外に「環境統計学Ⅰ」と「Ⅱ」、ならびに現人間科学課程・行動科学コース(28年度入学生以降は人間文化課程・行動科学専修プログラムになります)の特定の専門2科目と併せ、合計6科目の単位を修得すれば、社会調査の知識や技法を使い社会的事実を科学的・論理的に把握できる能力を証明する公的資格「社会調査士」を、卒業時に申請し取得することができます。例年ほぼコンスタントに、環境社会学研究室所属生を中心とした環境科学課程卒業生の1/4~3割程度が、この資格を取得しています。実は最近、環境科学課程を卒業した人の「社会調査士」資格取得者数は、人間科学課程の卒業生より多いくらいなんですよ。因みに私自身は、大学院修了レベルの資格である「専門社会調査士」資格を持っていたりします。環境科学や人間科学を学ぶ学生さんたちは、資格取得にも挑戦してみてください。

フィールドワークを行うに当たり、気を付けるべきポイントはありますか

 社会調査では、行政機関や環境NPO等の担当者にお時間を割いていただいてお会いし、聞き取り調査を行うこともあります。そのため、調査を行う側が「貴重な勉強をさせていただいているんだ」という謙虚な気持ちで行うことが大切です。それから、コンピュータの集計・分析ソフトを使う形が一般化したとはいえ、アンケート調査の場合は特に、データのチェックや入力作業自体は結構な時間がかかりますから、その意味では一定の忍耐力と申しますか、真摯でひたむきに取り組む姿勢が求められます。
 なお、社会調査の実習作業はグループワークが主となるため、グループで他者とコミュニケーションをとりながら作業を行うのが得意な人に向いているでしょう。同様のことは、現・人間科学課程の行動科学コース(新課程の行動科学専修プログラム)などにもいえる話ですけれど。
 それから、実習授業で私自身が気を付けていることは、極力学生の主体性・自主性を引き出すことです。環境問題関連の具体的な質問文・回答選択肢等の作成、学内や地域で行う実際のアンケート調査など、受講生が複数のグループに分かれ進めていくのですが、実習作業や検討した結果の中間報告などについて、早い段階で軌道修正・訂正しないと明らかにまずいと思われる事項以外は、できるだけ私から口を挟まないよう心掛けています。学生間で相互に指摘し合い、自分たちで不十分な箇所・間違いに気付いたり、議論を良い方向へ向けていったりするなど成長を期待してのことですが、我慢しきれなくなり、つい助け舟を出し過ぎることもあります(笑)。

先生が講義で心掛けていることについて教えてください


この学習を通し、学生たちは総合的な視野で物事を捉えることができるようになるほか、批判的な思考方法を身に付けることも可能です。

 講義の中では、どうしてもやや難しい専門的なことを交えて話さなければならない場面もあります。ですので、できるだけ各回の授業で取り上げる事柄に関連性が高い、あるいはその回で扱う理論に適用可能なトピックス・事例を引き合いに出しながら、具体的かつ分かりやすく説明するようにしています。特に、その問題・事例をめぐるこれまでの経緯や最新の動向が分かるように、具体的な環境・開発事例やその問題点が掲載された新聞記事等の資料を多く提示したり、環境破壊・汚染が深刻化していた時期の古い映像を教材の1つとして見てもらう等、取り上げる環境問題などについて、より一層リアリティを持ちつつ理解を深めていく工夫をしています。
 また先述の通り、環境は人々のライフスタイルや意識・価値観、文化、さらに人間関係や組織のあり方・特徴、それらの変化などと密接に関係しあっています。そのため、環境のあり方や環境問題、その解決策について考えるとき、一面的に、直接環境に関わることのみを取り上げて考えていこうとするような視野の狭い発想、近視眼的見方ではなく、関連性のある側面にまで視野を広げ、幅広く総合的に思考していく必要があります。
 ところがどうしても、特に大学に入学して間もない時期だと、環境に直接関わる部分しか関心を持っていない方や、視野が狭い方もいらっしゃいます。これは、高校時代までの授業や入試の科目が細分化され、特定の科目の知識だけをたくさん暗記しておいた方が入試に有利というシステム・制度に由来する側面が強いものだと思われますが。
 そのため、広く物事を捉えることができる総合的な視野・視点を養うことも、常に念頭に置き講義を行っています。とりわけ新年度の1年生以降、地域政策課程になってからは、従来以上に幅広く地域社会の全体的な発展等のあり方を考えていくことが要請されるでしょう。
 また最近は、文献に書いてあることや教えられたことを何ら疑いもせず、すぐ鵜呑みにする学生が一般に増えているともよくいわれます。そのため、記されていること・教わったことについて「本当にそうなのか」あるいは「なぜ、そうなっているのか」「その現象・問題の背景には何があるのか」など、物事や社会現象の裏側を考えてもらいたいと思いながら、説明をしています。社会学は、“常識破壊の学問”と呼ばれることもあるのですが、特に環境問題をめぐっては、地球温暖化論争に典型的に示されているように、研究者の間でも、問題の原因や解決策等について見解が一致していないケースもあり、また、マスコミをはじめ各種メディアから流れてくる情報の中には、しばしば矛盾したものが含まれていることもあります。ですから、1つの見解にとらわれ、それだけが“常識”だと決めつけてはいけません。多様な見方・視点・考え方の中から各自が主体的に判断した上で、他の人たちと連携しながら問題解決に向け行動していく力を身に付けていってほしいです。

卒業後、学習したことをどのように生かしていけるのでしょうか


社会構造が複雑化し、絶対的な正解がない問題が山積する現代社会では、総合的な思考や批判的思考、論理的思考に基づき判断していく力が役立つはずです。

 2000年度入学の環境科学課程・1期生以降これまでの通算で、環境科学課程内・全研究室で環境社会学研究室が最も多くの学生が所属してきており、毎学年5名ほどがコンスタントに所属しているのですが、それら卒業生の進路を見ると、当研究室卒業生の場合、毎年1~2名ずつが公務員になっており、残りは民間企業が大半で、一部、研究をより深めるために大学院へ進学するという具合です。民間への就職者では、生協・JAをはじめとした食品小売・農業系事業者やエネルギー供給事業者、環境機器取り扱い事業者、環境NPOなど、直接大学で専門に学んだり研究したことが生かせるところに就職している人も一定数はいます。金融機関関係など、そうではない就職先を選ぶ人が多いのが現状ですが、直接環境に関連していない事業者でも、現代は環境に配慮した経営が必須となっているため、専門で学んだことをベースとした職務の担当になるケースも少なくないようです。公務員では、環境省のほか、特に県・市職員が多く、大学職員になっている卒業生も数名います。公務員志望の場合、やはり大学時代の専門を生かせる環境・自然関係の部署で働くことを希望している人が多いのですが、当初の希望通り、環境関連部署の配属になるケースとそうでないケースに分かれています。もっとも環境関連部署配属になっても、ジェネラリスト養成ということで、大抵3年位で別の部署に異動になるのが通例ですから、専門がずっと生かせるというわけではありませんが。なお、これは環境省勤務の研究室OBからの情報ですが、環境行政を行っていく上でも、幅広く多様な観点から環境と社会を捉えていく環境社会学の視点は非常に重要なものの、そうした視点・知識を持った公務員は多くないため、仕事をする際の武器になるということでした。行政職で環境関連業務を目指したい方にとっても、環境社会学分野の学びは役立つのではないでしょうか。環境科学課程の卒業生を全体的に見ても、環境社会学研究室卒業生ということで見ても同様なのですが、「主に環境について学んだから、卒業後こういう職業に就いている人が明らかに多い」ということは一概には言えませんが、ここで培った考え方や知識は、どこでも活用していけるものだと思います。