人文社会科学部研究室探訪●Part9(vol.4)page2

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准教授 塚本 善弘002
准教授 塚本 善弘003

Profile
TSUKAMOTO Yoshihiro
愛知大学大学院文学研究科地域社会システム専攻(1994年)【修士】、同(1998年)【博士後期・単位取得】


先生がこの道に進もうと思った経緯について、お聞かせください

 最初の方の話でも少し出てきましたが、環境社会学が1つの学問分野として確立し認知されるようになるのが、1990年代前半~半ば頃のことでして、実はその時期までといいますか、大学院修士課程の頃まで私が専門としていたのは、人間科学課程・行動科学コース所属の小野澤章子先生の専門分野でもある地域社会学でした。都市化や過疎・少子高齢化、IT化、グローバル化といった大きな社会変動の中での、地域社会の構造や住民生活の変容状況、それらのあり方、地域が抱える諸問題への対応策などについて、多角的に迫っていくのが地域社会学の特徴といえるのですが、その中で私自身は、日本国内の地域開発のあり方に関心を抱いていました。本来、地域や住民のために行われるものであるはずの地域開発が住民の生活を破壊してきたのはなぜなのか、どうすれば住民のための開発になるのかという観点から、修士課程では特に、ダムなどの水資源開発・河川流域と住民生活との関わりについての研究―例えば大規模公共事業の計画立案から計画決定・建設着手~完成に至るまで、その事業の影響を受ける地域住民の意向が政治的意思決定プロセスに反映されない中で事業が進んでいく、その全体的メカニズム・構造を明らかにするといったようなことをしていました。
 もっとも、これらについて研究していく中で当然、開発に伴う自然環境の破壊・汚染、公害といった負の影響も多かれ少なかれ関係して出てきます。90年代半ば頃、日本の社会学研究において学界の中でも「環境社会学」が認知されるようになり、90年代後半にかけ、徐々に自身の研究領域も環境問題まで広がっていきました。1995年の「阪神大震災」後は、全国的に市民・NPO活動への注目度が上昇。いわゆる「NPO・ボランティアブーム」が到来し、そうしたこととも相まって、市民・NPO活動について社会学的にアプローチする「社会運動論」の分野も踏まえた研究を行っていくこととなりました。90年代後半頃は、地域・環境・社会運動という社会学の中の主に3つの分野から研究を進めていた状況でした。
 そして2000年前後頃以降、特に「環境社会学」分野担当として岩大に赴任してからは、どちらかというと地域レベルの環境に関わる動向や問題解決策の検討・分析を中心としながら、市民主体の集合的環境行動「環境NPO活動」のあり方にも注目しつつ多様な研究を進めています。

現在力を入れている研究はどういった内容でしょうか


北上川における「流域管理」や「流域ガバナンス」をテーマに、水環境保全活動をめぐる課題等の研究も行っています。

 まず1つは環境NPO関係です。2000年頃以降、一貫して多くの人が環境NPO・ボランティア活動に関心を持ちながらも、実際に参加・関与できている人は少なく、地域レベルで活動している団体をはじめ大半の団体は、人材・資金などの活動資源不足に悩んでいます。そうした中で、環境NPOが活動の成功・活発化に必要な資源をどのように調達・動員しようとしているのかという点について、行政機関や民間企業など外部機関・組織との連携や協働の状況、さらに活動参加者の意識・行動変容過程等を分析することで明らかにし、市民主体の環境配慮型社会実現の可能性を追求してきました。特に、次の2つ目のものとも関連しますが、岩手・宮城の北上川流域・北上川水系の水環境保全団体などを事例に、調査研究を行っています。
 2つ目は、河口周辺の植物や魚介類など自然資源の利用・保全に関する研究です。北上川がもたらす恵みともいえる北上川河口域のヨシ原等の自然資源は、戦前から「里川」として、周辺住民が地域ぐるみで共同利用しながら保全・管理してきた典型的「コモンズ」ですが、高度成長期以降の産業構造等の変容を受け、徐々に共同管理体制が変わっていくとともに、90年代後半~末頃以降、資源の価値が再評価され、さらに11年の「大震災」で大きく被災するなど、時代とともにそのあり方を変えてきています。こうした自然資源を管理する仕組みの変容過程と課題について、聞き取りや住民アンケートなどの社会調査に基づき研究し、いかに「コモンズ」を守り継承していくのかを考えています。北上川河口周辺の貴重な生態系・自然資源、北上川流域全体的な水環境を、周辺地域の人々や流域全体で、どのような体制の下で保全・継承していくのが望ましいのかについて、歴史的経緯や現状の調査から明らかにし、ローカル・レベルでの〈人間−自然〉共生に向けた可能性を探っているという感じです。

先生は「エコ住宅」もテーマにされているようですね

 地球温暖化防止、CO₂排出削減に資する「エコ住宅」普及促進の動向と課題に関する研究が3つ目のテーマです。2008年頃に、「エコ住宅」普及をテーマとした大学内の共同研究プロジェクトを私が代表者となり実施することになったのを契機とし、現在継続的な調査研究を進めているところです。国内のCO₂排出量は近年、産業・運輸部門では減少に転じているものの、家庭部門では1990年比で2割ほど増えた状況で、日本の温暖化対策を進める上での課題となっているのですが、「エコ住宅」をテーマとした社会学的研究自体、これまでほとんど例がありませんでした。そのため、最初はどういう住宅をそもそも「エコ住宅」と考えるのかという定義に関する議論から研究を始め、全くの専門外である建築学的なことも勉強したりして、色々と苦労しています(笑)。
 世界的に見ると、欧州を中心に住宅のエコ化・省エネ化は相当進んできていて、「エコ住宅」を建てたり、エコリフォームしたりする技術自体は、既にあります。しかしながら日本では、最寒冷地の北海道以外は有数の寒冷県である岩手も含めて、あまり普及していません。問題は、国内でいかにそれを普及させていくのかという、社会制度・仕組みに関わる社会科学的な側面です。国による住宅建築基準の強化など、法規制の強化は不可欠なのですが、それだけでなく、全国一律ではない各地域の気候・風土に合った「エコ住宅」を普及させていく必要があり、地域レベルでの取り組み・施策も重要になってきます。
 これまでの調査研究の結果から、北海道以外で普及への先進的取り組みが見られる地域では、特に2000年代後半頃以降、地方自治体や環境NPO、地域の住宅事業者の団体などが連携した体制・ネットワークを組んでの取り組みや、自治体の総合的観点からの施策が展開されているという特徴が分かってきました。地域の多様な住まい手に対し、環境性の高さだけでなく、居住後の経済性や快適性・健康に暮らせることなども含む「エコ住宅」の幅広い利点・良さを、それらを「見える化」する手法を積極的に活用し、多様な形で情報提供・PRして普及啓発を進めているほか、地域の住宅事業者の設計・施工技術力やPR力の向上、初期費用負担軽減策などを地域の関係諸主体が連携し展開しており、実際に「エコ住宅」が他地域と比べ増えてきています。取り組み・施策の成果が現れ始めている地域も出てきているのですね。

今後の抱負をお聞かせください

 環境NPO関係の研究においては、団体活動が活発化するためのカギを見つけ、少しでもそれを地域のNPO関係者等にフィードバックしていければと考えています。
 河口周辺の自然資源や流域水環境の利用・保全に関する研究では、大震災後に活動・取り組みが停滞している北上川に関し、国内の他河川流域での動向も交えた比較研究も行いながら「流域管理・ガバナンス」の進展に貢献していきたいと考えています。また北上川河口域のヨシ原は、未だ震災での大津波や地盤沈下のダメージから回復途上にありますし、その周辺地域社会も人口減少・高齢化等の問題を抱え、生態系や自然資源の利用・管理には、北上川上・中流域社会など周辺地域以外の外部からの支援も不可欠となっています。外部支援も含めた地域資源の利用・管理の体制・仕組みは、「開かれたコモンズ」とも呼ばれたりしますが、そうした社会状況の変容も踏まえた現代的な「コモンズ」のあり方についても模索し、被災地域の復興に少しでもつなげていければと考えています。
 岩大の中で「震災復興」の支援というと、どうしても岩手県にある大学ということで、岩手県内の被災地というのが前面に出てくるケースが多いのですが(苦笑)、自然環境の区分は行政的な境界である県境とは異なり、“北上川つながり”という点では、盛岡を含む岩手・内陸部と宮城県北部は、同じ北上川水系です。河川・水に注目すると、歴史的に見ても北上川を通じた関係・交流は深いわけで、北上川流域をひとまとまりの地域的圏域として見る「流域圏」の視点に立ち、河口周辺地域の震災からの復興ということも念頭に置きながら、今後も北上川の水環境問題に関する研究を継続していきたいですね。
 それから、各地域で「エコ住宅」が普及していく上で有効な方策や、普及推進組織体制の研究を進めることで、取り組みが遅れている地域での普及を図り、国内における温暖化対策のさらなる進展につなげていければとも考えています。

これから環境科学・環境社会学を学びたいと考えている高校生の方に、メッセージをお願いします


環境共生専修プログラムの授業では、表計算ソフトなどを使う機会が多くなります。普段からパソコンに触れる機会を増やし、慣れておきましょう。

 これは普段、私が学生たちに話していることでもありますが、まず環境(科)学そのもの、あるいは新しい環境共生専修プログラムの学際的性格、さらに環境と他領域との密接な関係性という観点からも、環境と直接的に関係する事柄や動向・問題だけでなく、広く現代社会で生じている様々な現象・問題に対し常に関心を持ちながら、多様なメディアや文献などの情報を得て、そこから自分なりに判断していく姿勢を養っておいてほしいですね。
 また、多くの方は中学・高校と進むにつれ、学校生活や勉学が主となる反面、身近な地域との関わりが薄くなってきていると思います。あまり時間的ゆとりはないかもしれませんが、機会があれば、友人や家族と地域の行事・活動に参加したり、環境をはじめ身近な地域が抱える問題に目を向けたりするなど、地域社会を取り巻く現状に思いをめぐらせてみてもらいたいです。併せて、地域の問題・状況は決して地域内的要因のみで生じておらず、他地域や他国とのつながりなど外的要因の中で起きており、地球規模の目線でそれぞれの地域間・国家間の関わりを考える“グローカル”の視点が重要なことは、頭に留めておいてください。



<学生のコメント>

○幼い頃から家族でキャンプをしたり山登りをしたりするなど、自然に親しんできました。成長するにつれ、人間と自然の共生について深く考えるようになり、大学で専門的に勉強してみたいと思い現在に至ります。岩手大学は環境について文理両方の分野からアプローチできるところが非常に魅力的です。環境科学課程の学生は、高校で文系出身も理系出身も両方いるのですが、塚本先生の授業ではどちらの学生にも分かりやすいように基礎から説明してくださるので、心配ありません。
 現在、私は「流域ネットワークの再構築」というテーマで卒業研究を進めています。昔に比べ、地域の人々が河川等に触れる機会が少なくなってきたという状況に危機感・問題意識を持ったことから、このテーマを選びました。実際に活動している市民団体に参与型聞き取り調査などをしながら、もう一度地域住民が河川環境とつながりを持つにはどうしていったらいいのかということを考えています。

○東日本大震災の後、国内ではエネルギーに対する関心が高まり、「低炭素社会」をキーワードとしたコミュニティづくりに注目が集まっていました。その影響もあり、当時高校生だった私は環境に配慮した社会づくりについて興味を持ち、環境を専門に学ぶことができる岩手大学で勉強することを決めました。
 現在、私が力を入れて取り組んでいるのは「エコ住宅」に関する研究です。つい先日も、紫波町の「紫波型エコハウスサポートセンター」を塚本先生と見学しに行きました。学習としてはまだ準備段階なのですが、今後は地域で行われている取り組みについて、関係者に詳しく話をお伺いするなどしていこうと思っています。
 卒業後は市役所への就職を考えており、地域社会の省エネ化を促進していきたいです。「環境社会調査実習」で盛岡市のゴミ問題について住民アンケート調査を行ったり、個人的に環境活動をしたりしてきた中で、地元の課題が見えてきましたので、これからの環境政策を提案していければいいと思います。