屋敷林における鳥類相の研究
村田野人
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T. はじめに
 岩手県胆沢町(いさわちょう)には散居という集落形態がみられる。屋敷林は主に家屋の北西側にあり耕作地の中に島のように散在している。このため,散居の屋敷林では単に孤立した林分とは違い,さまざまな鳥類相が存在すると考えられる。
 本研究では,散居の屋敷林における鳥類相の違いを明らかにすることを目的とした。
U. 調査地点
 調査する屋敷林を周囲の屋敷林密度の高い低い,構成する樹木に広葉樹が多いか少ないかという基準で4地点選んだ。

周囲の屋敷林密度が低い周囲の屋敷林密度が高い
屋敷林に広葉樹が少ない
St.1
St.4
屋敷林に広葉樹が多い
St.2
St.3
屋敷林と鳥類相の違いを比較するためSt.5とSt.6は二次林を調査地として選んだ。
V. 調査方法
1.毎木調査 樹高1.3m以上の樹木を対象として樹種,樹高,胸高直径を測定し幹の位置を図に記録した。

2.鳥類調査 8月,10月,2月の3回実施した。各調査地点において30m×30mの範囲で終日の待機センサスを行い鳥類が出現した時間,種類,個体数を記録した。

W. 調査結果
1.毎木調査 調査では43科94種が確認された。胸高断面積の合計でみるとSt.5とSt.6ではクリやコナラなどの広葉樹が優占していた。St.1〜St.4の調査地点ではスギが優占しているが,St.2とSt.3では他地点と比べ広葉樹が多いことが確認された。

2.鳥類調査 夏季と秋季の調査では6目20科42種2558個体を確認した。
a)鳥類相と周囲の屋敷林密度の関係 夏季の調査ではSt.5以外のすべての地点でヒヨドリが優占第1種となっている。優占第2種から第5種までを比較するとSt.1とSt.2ではスズメやカワラヒワが,St.3とSt.4ではアカゲラやコゲラなどキツツキ科やシジュウカラが,St.5とSt.6ではシジュウカラ科やキツツキ科が優占している。このように周囲の屋敷林の密度が低い場所,高い場所,二次林で優占する種に違いがみられる。



b)鳥類相と樹木の関係 秋季のSt.3ではシジュウカラ科やカケスが優占しているのに対し,St.4ではこれほどの集中はみられない。これはSt.4にはないコナラの高木がSt.3には生育しているため,餌となるドングリがあることによるのではないかと考えられる。同じようにSt.1ではシメが50%以上の高い優先度を示している。これはSt.1にあたるイチイの果実をねらって集まっていると考えられる。このように構成樹種のちがいにより優占する種に違いがみられた。構成樹種による鳥類の優占種の違いが夏季よりも秋季に顕著にみられるのも秋に鳥類の餌となる果実を樹木がつけるためと考えられる。




c)鳥類相の季節による違い 秋季の調査では夏季に比べシジュウカラ科の鳥やカケスなどが出現する調査地が増えている。また夏季には確認されなかったシメなどの漂鳥や旅鳥が屋敷林で確認されている。このように鳥類相は夏と秋では違う。



Copyright (C) 岩手大学人文社会科学部 植物生態学研究室
初版:2002年12月25日 最終更新:2002年12月25日