森林が点在する耕作地生態系における鳥類相に関する研究
村田 野人
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はじめに
 森林を主な生活域とする鳥類群集では,生息地の森林面積と種多様性との間には関連性が認められ,小規模な森林ほど種多様性が低いとされる.しかし,小規模な森林では一定面積の上で均質な環境からなる調査地を確保することが難しく,鳥類群集の研究は少ない.
 そこで,本研究では屋敷林を小規模な森林と捉え,屋敷林が点在する耕作地の鳥類群集を森林サイズや周辺の土地利用の違いなどから明らかにし,小規模な森林が鳥類の生息地としてどのような位置づけとされるのかを考察した.
調査地
 奥州市胆沢区を主体とする胆沢扇状地は4段の河岸段丘からなり,段丘面ごとにサイズの異なる屋敷林が点在する.この屋敷林は植栽されたスギが主体で,クリやカスミザクラ,コナラなどの二次林構成種が混生し,水田の中に島として存在する.なお,胆沢扇状地では水田が最も広い面積を占め,牧草地,放棄水田,植林地,二次林なども見られる.
調査方法
 屋敷林の鳥類群集に関する調査では,胆沢扇状地内の6ヵ所に調査地点(小規模な屋敷林が散在する下位段丘面の屋敷林St.1(ほぼスギからなる),St.2(広葉樹が混生する),大規模な屋敷林が散在する中位段丘面の屋敷林St.3(広葉樹が混生する),St.4(ほぼスギからなる),ほぼ広葉樹からなる二次林として扇状地中央St.5と扇状地周縁St.6)を設け,2001年8月,10月,2002年2月,6月の4回,プロットセンサス法を用いて半径15mの範囲に出現した種名と個体数を記録した.
 屋敷林の点在する耕作地の鳥類群集の調査では,植生構造が異なる9地区に直線2kmのラインを設定し,時速2km,観察範囲両側25mのラインセンサス法を用いて2005年2月から2006年1月までの毎月1回,種名と個体数を記録した.さらに各地区で森林,水田,畑地,牧草地,宅地,水面,道路など7種類の土地利用別面積を算出した.
結果と考察
 プロットセンサス法を用いた調査では,全調査地点から26科53種が記録された.屋敷林4地点では22科34種,二次林2地点では15科29種であった.St.1,2では比較的開けた環境を選好する鳥類(カワラヒワなど)が多く見られ,平均19.5種591.5羽であった.St.3,4では森林を好む鳥類(ヒガラなど)と比較的開けた環境を選好する鳥類(カワラヒワなど)の両方が見られ,平均19.0種705.5羽であった.一方,St.5,6では平均24.0種577.0羽であった.規模が同じ屋敷林同士(St.1とSt.2;St.3とSt.4)では鳥類相が類似し,鳥の分布に影響を及ぼす要因として植生(樹種構成)よりも同じ段丘面にあること(森林のサイズや距離)が強く働いていることが示唆された.同様にSt.5は同じ植生からなるSt.6よりも,同じ段丘面にあるSt.3とSt.4との間で高い類似性があった.
 他方,ラインセンサス法による調査の結果,繁殖期に71種3353羽が確認された.森林の面積と鳥種別個体数の関係では,シジュウカラ科の鳥類やコゲラ,林縁に生息するホオジロなどで正の相関が認められた.
 これらのことから,鳥類相には生息地の多様な環境の存在とともに,各々の面積が大きく関わっていることが明らかにされた.


Copyright (C) 岩手大学人文社会科学部 植物生態学研究室
初版:2002年12月25日 最終更新:2007年2月20日