都市域における河川敷の植物的自然と環境保全
−雫石川下流域を例として−
井上恭子
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1.目的
 本研究では、雫石川下流域(太田橋から北上川合流域地点まで)における植生や植物相を調査することによって、都市域における河川敷の植物的自然を把握し、さらに、それらの生態的・景観的役割、それらをどのように保全するかを考察することを目的としている。
2.方法
 次の項目についてそれぞれ現地調査を行った。
(1)各群落ごとに植生調査をそれぞれ数地点で行い、群落組成表を作成した。
(2)空中写真および現地踏査に基づき、植生図を作成した。
(3)右岸、左岸でそれぞれ典型的な場所を選び、植生断面図を作成した。
 なお、植生調査、植生断面調査において、不明な植物については採取し、さく葉標本を作製し、同定を行った。
3.結果
 91カ所で植生調査を行った結果、23型の群落に区分することができ、84科377種の植物確認した。群落の配列は一般的に流水に接した場所から堤防に向かい、多年草群落→オノエヤナギ群落→シロヤナギ群落→ハリエンジュ群落という帯状分布を示していた。
(1)右岸の植生:上流部では、シロヤナギ群落とハリエンジュ群落の間にヨシ群落が広がっている。中流部から下流部にかけては耕作地が広がっている。また、下流部の水際にはオニグルミ群落が発達している。
(2)左岸の植生:最上流部ではシロヤナギ群落、ハリエンジュ群落、オニグルミ群落が混在し、堤防側ではススキがパッチ状に群落を形成している。上流部から中流部にかけてシロヤナギ群落が広がり、その中にオニグルミ群落が帯状あるいはモザイク状に混在している。
(3)中州の植生:中小の中州は円礫からなり、ツルヨシ群落が形成されている。大きな中州になると、周囲から中央に向かい、砂礫→一年草あるいは多年草群落→オノエヤナギ群落という分布を示し、場所によっては水が溜まり、ガマなどの高茎草本が生育している。
4.考察及びまとめ
 結果から、次のようなことが考えられる。
(1)調査地では乾性地から過湿性地、あるいは砂礫から壌土というように多様な環境が存在し、それに対応するように多様な群落、多様な種が存在している。
(2)ヤナギ類は土壌の浸食を防ぐはたらき、ヨシ群落は水の浄化能力が高いことがそれぞれ知られ、河川環境を保全する役割を果たしている。また、多様な群落が存在することによって、様々な鳥類や昆虫などの動物に対して、多様な生息場所を与えている。
(3)生態的な役割と同時に、都市域にありながら多様な群落、多様な種が存在することで、豊かな河川景観を形成している。
(4)以上から、雫石川下流域は植物的自然が豊であり、景観的にも優れているので、今後とも環境保全を進めていくために、種々の保全策を捻出していくことが必要である。


Copyright (C) 岩手大学人文社会科学部 植物生態学研究室
初版:2002年12月25日 最終更新:2003年6月3日