研究室探訪堀口 大樹

堀口 大樹

HORIGUCHI Daiki

人間文化課程 【ロシア語学】

  • 東京外国語大学外国語学部ロシア・東欧課程ロシア語科 (2007年)
  • 東京外国語大学地域研究科言語・文化専攻【修士】 (2009年)
  • ラトビア大学人文学部研究生 (2012年)
  • 東京外国語大学総合国際学研究科言語・文化専攻【博士】 (2013年)

掲載日


専門分野について

岩手大学における人間文化課程の特長についてお伺いしたいです

人間文化課程には、行動科学や現代文化、歴史などさまざまな人文系の学問があり、学生たちは自分の関心に沿って広く深く学ぶことができる環境です。ロシア語学については、学部改組前は国際文化課程の欧米言語文化コースだったのですが、今は東西ヨーロッパのことを学ぶヨーロッパ語圏文化専修プログラムで、ドイツ、フランス、ロシアの言語とその文化・文学・社会を総合的に学習することができます。幅広く勉強した後、さらに自分の専門とする分野を選択していくというシステムで、地域のグローバル化を牽引できる人材を育成しています。

ロシア語学の魅力・面白さはどういったところにあるのでしょう

ロシア語はインド・ヨーロッパ語族の中で、東ヨーロッパを中心に話されているスラヴ語派に属している言語です。スラヴ諸国の中でもロシア語の話者は一番人口が多く、ロシア国内に1億4千万、国外を含めると推定2億5千万人の話者がいます。
ロシアは地理的にヨーロッパとアジアの間に位置しているため、ロシア語にはアジア系言語のほか、ヨーロッパ系の言語からの借用語もあります。西欧化が一気に進んだ18世紀からはフランス語やドイツ語からの借用語が多くなり、20世紀後半になると英語からの借用語が増えました。全体的に考えると、ロシア語はポーランド語やブルガリア語などほかのスラヴ語と非常に似ているので、ロシア語を勉強することでそれ以外のスラヴ語圏の国々にも関心を広めやすいのではないかなと思います。

ロシア語を文法的に見ると、日本語の「は」「が」「を」といった格助詞の代わりに格変化を行い、語尾を変化させることで文中の役割を示すという特徴があります。キリル文字という独特の文字を使うため、初学者はまずそれに慣れる必要があるわけですが、学習する上で特に大変なのは動詞です。多くの動詞に完了体と不完了体があり、アスペクトの使い分けでその動作の時間的な違いを表します。例えば「読む」という動詞で考えると、完了体は「読み終わる」や「一回限り読む」といった意味で、不完了体だと「読んでいる最中」とか「習慣的に読む」という意味です。それから接頭辞も発達しており、「読む」という動詞に接頭辞を付け「読み始める」「読み終える」「読み直す」「ちょっと読む」「たくさん読む」「読み通す」「読みふける」「疲れるまで読む」「満足するまで読む」と表現を変化させることができます。格変化、完了体・不完了体など難しい部分もありますが、それを学んで使いこなせるようになれば世界が広がります。奥深く、学べば学ぶほど面白くなる言語だと思いますよ。

講義について

講義ではどんなことを教えているのでしょうか

ロシア語について語の起源や構造、使い方まで深く分析していく言語学的な講義を行っています。それから、ロシア語を実際に使いながら会話をする演習も受け持っておりまして、例えば学生たちが分からない単語があれば私がロシア語で説明をするということをして、実践的な力を培ってもらう授業もあります。

講義形式の授業では、一方的にならないように学生たちへの問いかけを多く入れるように心掛けています。歌や詩、演劇を取り入れるほか、ドキュメンタリー番組等の視覚資料も用い、時事をからめた問題を扱うなど、関心を持ってもらいやすいよう工夫もしています。海外出張の際に私がビーツを買ってきまして、大学の調理室を借りロシア人の講師に指導してもらいながら学生同士でボルシチをつくる機会も設けています。留学生も一緒にそのロシアンランチを食べ交流を深めているんですよ。こういうところからも興味を広げてもらえればと思っています。

それから、語学の学習には記憶力が必要です。学生の様子を見ながら記憶の負担を考えた上で課題を課しています。また、発音が非常に大切ですので、特に勉強し初めの1年生は口元を観察します。口の形や舌の位置などで発音が変わってきますので、そこを念入りに指導することで実際に使えるレベルの力を身に付けさせたいという気持ちです。授業内だけで覚えるのは難しいので、予復習はしっかりとして講義・演習に臨んでください。

 

ロシア語を学ぶことで、学生たちはどういった力を身に付けることができますか

ロシア語に限らず外国語全般にいえることなのですが、ほかの国の言語を学ぶことでそれが話されている地域の文化の多様性を知ることができるとともに、自国の文化・特長なども見えてきます。異文化という鏡に映すことで、自国の文化を理解することにつながりますので、学習者にはニュースを見たりその地域にかかわる本を読んだりすることをおすすめします。留学も社会人になると難しくなるので、機会があれば学生のうちに現地を見に行くと良いでしょう。

それから、外国語を話すにあたり言葉の選び方、声の大きさ、テンポなどに気を配るようになるため、日本語を喋る際にも注意する習慣ができます。自分の言いたいことをはっきりさせ、それを言語化して伝えようと格闘する中で自然とコミュニケーション能力の向上につながるのではないかと思います。喋るための力を付けるのに必要となるのは、音読です。外国語は図書館で静かに勉強するよりも、家で声を出して学習する方が単語の覚えが早くなりますし、発音も良くなります。自分のことを紹介できるのは自分しかいません。まずは自己紹介からできるよう練習もしましょう。

学習したことをしっかりと身に付けていくためには、学生自身が問題意識を持って学ぶことが望ましいです。語学はスポーツと同じで毎日の積み重ねが大事ですので、初めは分からないことが多くても知識を積み重ねていくことで、ある時「あ、これってこうだからこうだったんだ」と心から納得できる瞬間が訪れます。そのためにも、常に課題を持ってモチベーション高く勉強してほしいですね。語学について関心を高めるためには、自分が興味を持った言語に関連する人物など、好きなものを見つけそこから掘り下げていくのがおすすめです。

先生がロシア語に興味を持ったきっかけについて教えてください

子どものころから異文化に関心があり、世界地図を開いて国名や国旗、首都などを覚えるのが好きでした。中学3年生のときに外国語に興味が芽生えはじめ、語学番組やラジオなどでさまざまな言語に触れる中で、次第にロシア語への関心が大きくなっていきました。ロシアは日本の隣国なのに情報があまり入ってこないので、謎めいていたところに惹かれていったんです。キリル文字もエキゾチックに感じ、読めたり書けたりできたらかっこいいなと。それからスポーツを見るのも好きなので、ロシアのスポーツ大国という部分に魅力を感じたというのもきっかけの一つです。

私はロシア語だけでなく、バルト三国の言語の一つラトビア語も研究しておりまして、こちらは高校生のときに読んだガイドブックで興味を持ちました。たまたま手にとって開いたページで、日本語を学ぶラトビアの子どもたちが紹介されていて、日本からこんなに離れた国で日本語が勉強されているんだと非常に感動しました。その記事に住所が載っていたため、なぜラトビアの子どもが日本語を勉強しているのかを知りたくて手紙を書いたところ、しばらくしてすごく丁寧な日本語で返事が返ってきて、そのまま文通をすることになりました。このときの交流が、今のラトビア語研究につながっています。

現在先生が取り組まれている研究と、今後の展望をお聞きしたいです

ロシア語やラトビア語でも、文語で使われやすい言葉、口語で使われやすい言葉、若者の間で使われやすい言葉など、使用域が限定されるときがあります。動詞の接頭辞の意味と使用法分析のほかに、そうした文体的な特徴について、新聞や雑誌、メディアなどを資料に研究をしているところです。特にロシア語については、フィギュアスケート、シンクロなど芸術スポーツの実況者の言葉を研究したいなと。好きなテーマを掘り下げていきたいと考えています。

ラトビア語に関しては、2013年に日本初のラトビア語教科書を出版したので、今度は日本人学習者向けのラトビア語辞書の編纂をしたいですね。ラトビア語はロシア語と系統が異なり、インド・ヨーロッパ語族のバルト語派なんですが、ロシア語に近いウクライナ語、ベラルーシ語、ポーランド語、ラトビア語と似ているリトアニア語など、ほかの言語と比較・対照することで、ラトビア語の特徴を示していきます。ラトビア語は今大学では教えていないのですが、これからも研究を続け日本とラトビアとの架け橋的な存在になっていきたいという思いです。

高校生へのメッセージ

ロシアはヨーロッパとアジアにまたがる広大な面積を持ち、文学大国、スポーツ大国、音楽大国、宇宙大国などと評価され、さまざまな分野で優れた功績を残してきた国です。国際社会においても、常に独特の存在感を持つ国でもあります。言葉を覚えることで、そうしたロシアの文化を深く知ることが可能ですし、ロシアは100を超える民族が暮らす多民族国家でもありますので、幅広い文化に触れることができる点も魅力的です。日本とロシアは隣国なのに、そのメリットがまだ十分生かされていません。そういう点から考えても、日本人にとって大きな可能性を秘めた言語だといえるのではないでしょうか。

高校では外国語として英語を勉強するわけですが、ぜひ英語圏以外の文化にも興味を持ってほしいと思います。もともと興味があるのであれば、大学に入るのを待たずにロシアに関係する本を読んでください。例えばロシア語同時通訳者として活躍した米原万里さんのエッセイや小説がおすすめです。読書は非常に大事ですので、高校生のうちから興味の趣くままできるだけたくさんの本に触れましょう。


学生のコメント

昔から他国の文化に興味があり、外国語科のある高校に通い英語とロシア語を学びました。今は高校のときよりも深くロシア語を勉強し充実した毎日を送っています。英語と違い、ロシア語は日本人にとってあまり馴染みのない言語ですが、マイナーだからこそ勉強する価値があると思います。ただ、興味だけで一つの言語を追求するのはすごく難しいことです。ときには、なぜ自分はロシア語を勉強しているのだろうと考えることもあるのですが、「ロシアの文化を知ることで日本の文化も理解したい」という目的を見失わないように心掛けています。

演習では、ロシア語を専攻する学生の人数が少ないため、その分中身が濃くしっかりと力を身に付けることができます。堀口先生も学生に求める理想が高いので、予復習を徹底することが大切です。分からないところを放置せずその場で解決することで、ロシア語を使いこなせるようになりたいと思います。今私は2年生で、ロシア語を中心に授業をとっているのですが、副専攻として法学や経済学なども学びロシアと日本との社会・文化の違いなども考えていきたいです。

私がロシア語を専門に選んだきっかけは、高校3年生のときに参加した岩手大学のオープンキャンパスです。たまたま時間が空いてロシア語のブースに行った際、その魅力について語っていただき、興味を惹かれたためこの言語を専攻することにしました。お話を聞くまでは、ロシアは未知の国で「怖い」「寒い」など漠然としたイメージしかなかったのですが、意外と親日家が多いことや、「イクラ」といったロシア語由来の日本語があることなどを知り、親しみが湧きました。今はロシア文学への興味が深まり、チェーホフに関する卒業論文を執筆中です。大学2年の後期で交換留学制度を利用し、半年間ロシアへ留学したのですが、その際にチェーホフが「かもめ」を書いて過ごしたといわれる場所を見学しました。その経験も論文制作に生かせるかなと思います。

ロシア語に限らず外国語を学ぶ上で大切なことは、自主的に行動することです。演習でも、少人数のため誰かが沈黙してしまうと会話が途切れてしまいます。ロシア語で会話ができる貴重な時間を無駄にしないよう、分からない単語があったとしても知っている言葉を使いコミュニケーションを続けることで、成長につながると考えます。

卒業後も、留学先や学内でできたロシア人の友達との交流を続け、4年間学んだことを生かしていきたいです。


ページトップへ