研究室探訪笹尾 俊明

笹尾 俊明

SASAO Toshiaki

地域政策課程 【環境経済論】

  • 大阪市立大学経済学部 (1996年)
  • 神戸大学大学院経済学研究科【修士】 (1998年)
  • 同博士後期課程中退 (2000年)
  • 神戸大学【博士(経済学)】 (2004年)

掲載日


専門分野について

先生の研究についてお伺いしたいです

環境問題の中でも、特に廃棄物問題を専門にしています。先述のゴミ処理の有料化以外にも、岩手県を含め半数以上の都道府県が産業廃棄物の排出抑制・リサイクルを目的に産業廃棄物税というのを導入していますが、果たしてそれでどれだけの廃棄物減量効果・リサイクル促進効果があるのかなどについて、自治体の関連データを集計して実証分析をしながら研究してきました。

またゴミ処理施設を巡る社会的な問題についても研究しています。ゴミを適正に処理するために皆、施設が必要だということは分かっていても、いざ自宅の近くに建設するとなると反対意見が多くなります。「Not In My BackYard(NIMBY:ニンビー)」というのですが、この問題を解決するため、反対する人々は施設の何が嫌なのか、水源が汚染されるのが心配なのか、収集運搬車の増加が受け入れられないのか、どの程度離れていれば許容できるのかなど、一般市民にアンケートをとりながら明らかにし、経済学的な視点から定量的に分析することで、少しでも地域に受け入れられる施設をつくるには具体的にどういった部分を工夫していったらいいのか、情報提供や住民参加のあり方などを含めて探っています。

今後の展望についてはどうでしょう

これまでリサイクルの取り組みは多くの国で積極的に行われてきており、日本でも進められてきたわけですが、一般家庭から出るゴミのリサイクル率を見るとここ数年はほぼ20%で停滞しています。確かに以前は10%を切っていたので、増加してはいるのですが最近は頭打ち状態です。環境と経済のバランスという点で見て、それが果たして最適な数値であるかは慎重に考えなければなりません。

地球温暖化のような問題の場合、国際的な会議の場で地球全体としていつまでにどのくらい温室効果ガスを減らしていくかという議論がされていて、一定の合意があります。一方で「リユース」「リデュース」「リサイクル」の3Rをどこまで進めるのかという合意はないんですよね。国や自治体の目標といったものは一応あるのですが、それが科学的な検討を踏まえたものとまでは言えず、今までこれだけ減らして来たからさらにもう少し減らしましょうというレベルです。もちろん廃棄物の量が少なければ少ないほど資源の無駄遣いが減るので望ましいことではあるのですが、それじゃあリサイクル率が100%ならいいのかというと、それも経済的な負担が重くなるので闇雲に推進するわけにはいきません。ですので、そもそも国内のリサイクル率を今以上に高めなければならないのかというところから議論をする必要があります。

リサイクルするのにもエネルギーがかかりますし、二酸化炭素が出るので環境負荷にもつながります。リサイクルはあくまで廃棄物を減らすための手段であって目的ではありませんので、他の環境影響まで考えて結論を出さなければなりません。環境経済学では、そういった点も含め、リサイクルによって得られる追加的な便益がリサイクルするのにかかる追加的なコストと同じになるところまでリサイクルすべきと考えます。それが何%なのかという新しい研究も最近出てきているのですが、私はそれをもう少し日本の実情に合わせた実践的な観点から考え、3Rの推進基準を決めていければと。

それから、東日本大震災以降はエネルギーが注目されておりますので、その分野にも少し足を踏み入れていきたいですね。そこでもやはり私がテーマとするのは、廃棄物に関することです。現在、日本でも廃棄物の熱利用は行われているのですが、海外と比べると規模が小さく、まだまだ発展の余地があります。日本では一般廃棄物の約8割を燃やしているのですが、発電・熱利用というと、せいぜい温水プールにするくらいです。発生する熱やエネルギーを充分有効利用できていないという現状がありますので、それを経済的観点から調査・分析したいと考えています。

 

講義について

学部改組により、新しくできた地域政策課程の特長について教えてください

一つのキーワードとして「地域課題」を扱うということが挙げられます。震災復興、少子高齢化など地域のさまざまな問題を人文社会科学の視点で捉え、そうした課題に対応していける人材を育てていくことが目標の一つです。ただ「地域」といっても、狭い範囲に限定し物事を考えるわけではありません。地元の問題は、グローバルな問題へとつながっていることが多くあります。例えば私の研究分野である環境問題でいえば、地球規模の温暖化も発生源は各地域にあり、岩手県もその例外ではないわけです。震災以降注目されている地域分散型エネルギーのシステムづくりなど、地域の問題を解決することで、全体の問題を解決することにもつながってくるといえるでしょう。

それからもう一つのキーワードは「総合化」。これは改組前から引き継いできた考え方で、一つの課題を解決するには、複数の視点からさまざまなアプローチをしていくことが必要だということです。環境問題の解決策を学生に尋ねると、「法律をつくって規制すればいい」というような意見がよく返ってきます。確かにそれは間違いではないのですが、例えばゴミの排出を抑制したい場合に、法律という強制力を用いて排出を抑制するという手段は、この自由社会においてなかなか受け入れられることではありません。そこで、禁止にするのではなくゴミの排出量に応じ経済的な負担をさせるといった手段を提案することで、ゴミの排出量を減らす動機付け「インセンティブ」を与えることができます。環境保全のことばかりを考えるのではなく、経済的な視点も取り入れることで、期待した結果を出すことができることがあります。そういった意味でも、多角的な視点からアプローチする「総合化」の視点は重要だといえるでしょう。

環境経済論の魅力はどういったところにあるのでしょう

環境経済論とは、簡単にいうと環境保全をしながら経済発展をするにはどうしていったらいいのかを考える、ちょっとよくばりな学問です。これまで環境と経済は、どちらか一方を優先すれば他方が犠牲になるというトレードオフの関係にあると捉えられてきました。しかし、持続可能な社会をいかにつくっていくかが課題とされる現在社会において、環境保全は当然重要なのですが経済的な発展も考えていかなければなりません。いかにうまくバランスをとっていくか、そのためのシステムづくりを研究することが大事です。従来、環境問題の改善のためには一人一人の心がけが重要だという意識啓発型の考えが主流でしたが、それだけでは状況が改善しません。そうした中、先述したような経済的な視点で政策を考えることの有効性が少しずつ認知されるようになってきました。例えばゴミ処理の有料化という手法は全国の半数以上の自治体で導入され、実際ゴミの減量等に一定の効果を上げています。そうしたインセンティブをいかにうまく組み込んでいくか、より効果を上げるにはどうしたら良いかを考えるところも楽しいところですね。

私の授業では、環境問題がどういったメカニズムで生まれてきたのかということや、環境問題と経済との関わりについて講義し、その上で問題を解決するためにどのようなインセンティブ、仕掛けをつくっていったら良いのかを考えていきます。

講義で心掛けていることはありますか

退屈せずに受けることができる、分かりやすい講義を目指しています。授業で配るプリントは穴埋め式にし、キーワード等をブランクにすることで、学生たちがそれを書き込んで完成させるようにしています。図や写真も多用し、視覚的にも頭に入りやすいよう工夫しています。また、授業中1~2回はその日の講義に関係する「お題」を出し、学生同士で話し合う時間を設けています。それにより、ただ普通に授業を進めるよりも学生たちが積極的に発言してくれるようになりました。気軽に話し合うことで考えが整理され、自分の意見を持つことができるようです。この方法は講義についての意見や感想を書くレスポンスカードでも評判が良いので、学生たちの役にも立っているのかなと思います。

先生の講義を通し、学生たちにはどういった力を身に付けてほしいですか

期待としては、環境と経済の勉強を通じ物事全体を冷静かつ客観的にとらえることができるようになってほしいと思います。環境政策についての議論でも、例えば市民や消費者団体と企業それぞれに利害があり、両者で意見が対立し、結局話があまり進まないというような場合があります。そういった争いになるようなテーマについても感情的にならず、ある程度客観的な視点で意見を出せるような人材を育てていければと考えています。

併せて学生サイドも能動的に学習に取り組み、自分の頭で考えることを意識してほしいですね。現在は分からないことがあってもすぐにネットで調べ答えが出る時代ですが、それだけでなく新聞やテレビなど幅広い情報源にあたり、物事を判断することが大切です。社会に対する関心をもっと高め、できるだけ多くの情報を精査するようにしてほしいです。政策や経済の話は学生たちにとって距離感があり、自分たちにはあまり関係ないと思われがちなのですが、買い物やゴミ出しなど、普段の生活にも関わりのある学問ですので、他人事ではないということを知ってもらいたいです。

進路としては、一般企業に就職した場合でも公務員でも環境に携わる部署に配属になることもありますし、それ以外の部門に就いたとしても、広い意味で環境と関係のない事業所はありませんので、ここで学んだことをあらゆる場面で活かしてほしいと思います。

高校生へのメッセージ

「環境経済」という言葉から、難しそうだというイメージを持っている方も多いのですが、この学問は私たちの生活と深く関わっているものです。身近で、親しみのある学問ですので、ぜひ皆さん気後れせず積極的に学んでいってください。

それから、「経済学」というとお金儲けのための学問だと思っている方もおり、それも一面では間違いではないのですが、もともと「経済」は「世を経(おさ)め、民を済(すく)う」という四字熟語を略した言葉で、本来の目的は社会を豊かにしていくことです。そこに環境が入る「環境経済学」は、環境と社会をいかに豊かにしていくかという学問だといえます。経済という概念をあまり狭くとらえず、環境と社会の両方のためになる有効な制度設計を提案するものであるため、幅広く学ぶことができるという意味でも魅力的な科目です。特に社会問題に広く関心のある方には最適だと思いますよ。

また、私のゼミでは他大学で環境経済学を学ぶゼミと「合同ゼミ」を毎年行っています。教員が細かく指導することで効果がある場合もありますが、学生同士、他学生の研究に触れることで向上心も生まれると思いますし、自分たちで実際にアンケートやヒアリング調査等を行いますので実践的な力がつきます。ネットや教科書で調べた情報だけでなく、自分たちで手に入れた情報を使い研究することで、面白さはもちろん、オリジナリティにもつながっていきます。私も適宜ヒントを与えながら学生たちのサポートをしていきますので、興味のある方にはぜひ参加してほしいです。


学生のコメント

東日本大震災で地元が被災し、これから経済復興していかなければならないという状況の中、自分も何か貢献したいという気持ちが芽生えました。そのときに出会ったのが環境と経済が結びついたこの学問です。放射性廃棄物の処理問題一つをとっても環境と経済が深く関わってきますので、両立するような方法を考えてみたいと思い岩手大学の環境経済論を専門に選びました。この分野は、環境を経済という合理的な面から考え、多くの人へいかに理解・共感してもらえる説明をするかが重要になってきます。

私は今、合同ゼミに参加し研究発表へ向け取り組んでいるところです。学内でアンケート調査を行い、化粧品容器回収の実態について研究しています。今後環境経済論はますます重要視されていく学問で、食糧廃棄やエネルギーの問題など、さまざまな課題を解決するのに役立つものです。進路についてはまだ検討中ではあるのですが、将来はここで学んだことを生かし幅広い分野で活躍していければと思っています。

環境問題は経済的な発展に伴い生まれてきます。一方を優先すると、もう一方を犠牲にしてしまうという「トレードオフ」の関係性に興味を持ち、勉強してみようと思いました。笹尾先生の授業は1回1回が丁寧で、穴埋め式のレジュメなど工夫も多く、考えを深められる内容で非常にためになります。この学習をしていく中で実感するのは、やはりバランスが大切だということです。ほかの分野では、初めから環境を保全するためにはどうするかという観点で進めるのですが、ここでは両方バランスよく考えていかなければならないため、総合的な視点を意識しながら研究を行っています。

合同ゼミでは、地元の企業にヒアリング調査を行い、空き瓶リユース・リサイクル状況について調べています。大手企業ではリユースが推進されていますが、地元の企業ではリサイクルが主流です。主な処理方法がリサイクルに変わり、実際にコストや環境負荷はどう変化したのかを明らかにしていきたいなと思っています。国民の環境に対する意識を調査し、将来的にはメディア関係の職業に就き環境関係の情報を広く発信できればと考えているところです。報道関係以外でも、企業の環境担当に就くなどし、ここで培った力を発揮できればと思っています。


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