サクラソウ群落の成立に関する立地環境の調査とその保全
田口由起
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はじめに
 サクラソウは以前、河川敷・草原などの明るく湿った場所で普通に見られる植物であったが、近年の開発や採集のために多く自生地が消失し絶滅の危機にあるとして1997年に環境庁は「絶滅危惧II類」植物に指定した。そこで本研究では、サクラソウが良好に生育する自生地において、サクラソウ個体群が成立・維持する立地環境を調査・把握し、その保全方法を考察した。
調査地および調査方法
 調査地は岩手県雫石町小岩井農場の小さな沢に沿った低湿地で、50m×100mの範囲とした。調査はサクラソウの分布や植生の状況を把握し、サクラソウが密生するA地点とサクラソウが生育していないB地点とで、次の項目について調査を行った。
(1)地下水位測定:両地点に深さ20cm、43cm、67cmの井戸(内径80mmの塩ビパイプ)を各1本設置し、2〜4週ごとに地下水位を測定した。
(2)温度・湿度測定:両地点に温湿度計を高さ20cmの位置に設置し、30分間隔で自動的に測定・記録した。
結果および考察
 サクラソウの分布は沢沿いの開けた明るい場所に限られ、サクラソウが見られなくなる下流域ではミズバショウが多く生育していた。特にサクラソウが密生する場所では、樹高8〜12mの落葉高木のデワノトネリコが高木層(植被率90%)を形成していた。高さ0.5〜2mの低木層(植被率5%)ではカラコギカエデ、デワノトネリコ、イヌエンジュなどが見られ、高さ0.5m以下の草本層(植被率90%)では、サクラソウ、コバギボウシ、コジュズスゲ、チダケサシ、ニッコウキスゲなどの湿性地に出現する植物が多種、生育していた。この群落の特徴として、高木層を形成している樹木の高さや胸高直径が小さいことから、比較的若い群落であると考えられる。  地下水位の測定結果によると、A地点では測定期間を通じて水位の変動が大きかった(変動幅21.5cm、平均値-16cm)のに対して、B地点ではほぼ一定の高さ(変動幅6.3cm、平均値-16.6cm)を保っていた。またA地点では深さの違う井戸の間で地下水位に大きな差が見られ、深さ20cmの井戸は常に水位が高かった。これらのことから、サクラソウが密生する場所では、土壌は水はけが良く、地中の比較的浅い場所の保水量が高いと考えられた。他方、温度・湿度測定の結果から、A地点ではB地点に比べ平均湿度が高く、温度の日較差も大きいことがわかった。
まとめ
 調査の結果からサクラソウの生育地の立地環境は、陽光が十分に届き、土壌が適度に湿っているという特徴であった。長期的な視点に立ってサクラソウの保全にはこれらの立地環境を維持する必要があるといえる。そのためには樹木の伐採や水量確保などの人為的な管理が必要になってくると思われる。


Copyright (C) 岩手大学人文社会科学部 植物生態学研究室
初版:2002年12月25日 最終更新:2003年6月3日