早池峰山における植生の研究
−立地環境の特性による種構成の違いについて−
佐藤 雅巳
TOP > 特別研究テーマ >早池峰山における植生の研究
T はじめに

 早池峰山は盛岡市の南東,岩手県のほぼ中央に位置する標高1913.6mの山である。早池峰山は,蛇紋岩山地であり,大小の崩壊地が広がる特殊な自然環境を有している。特に,早池峰山高山帯では崩壊地が一面に広がり,そこに生きる植物もその影響を受けている。このため,早池峰山高山帯には多数の希少種・固有種が存在する。
 本研究は,この早池峰山高山帯において,立地環境が異なる場所では植物の種類にどのような違いがみられるのかを明らかにすることを目的とした。

U 調査地及び方法
1)調査地調査地1 早池峰山の南斜面西側,標高1760mの火山灰土壌の草地

調査地2 早池峰山の南斜面西側,標高1810mの中小の礫が散在する岩礫地

調査地3 早池峰山の南斜面東側,標高1800mの粗雑な岩塊が広がる岩角地
2) 方法 はじめに,三つの調査地ごとに10×10mの方形枠を設置した。そして,この方形枠を50×50cm,合計で400の調査区に分け,それぞれの調査区ごとに出現種を記録し,その種の優占度をBraun-Blanqet法によって判定した。さらに,それぞれの調査区における最高草丈も判定した。


V 結果
 調査地1は多くの調査区で植被率が100%を越えている。出現種は38種でタカネショウジョウスゲ,クモマニガナ,ミヤマヤマブキショウマ,ミヤマアケボノソウ,ナンブトウウチソウなどが優占している。調査地2は,三つの調査地のなかで出現種数が最も多い61種で,植被率も高いところが多い。優占しているのは,ハヤチネウスユキソウで,タカネショウジョウスゲ,ナンブトウウチソウ,チングルマなども多くみられる。調査地3は,粗大な岩塊で覆われているため,植被率のみられない調査区も多く,植被率も低い。出現種は34種である。ナンブイヌナズナ,ホソバツメクサ,タカネノガリアスなどが多い。
 調査地1と調査地2に共通している種は22種で,早池峰特有種は含まれていない。調査地2と調査地3に共通している種は13種で,ハヤチネウスユキソウ,ナンブトラノオ,ヒメコザクラといった早池峰山を代表する植物も含まれている。調査地1と調査地3だけに共通してみられる種はない。立地環境の上でも二つの調査地だけに共通する点はなかなか見出せない。
 調査地1と調査地3に共通する種は,必ず調査地2にもみられる。三つの調査地に共通してみられる種は7種で,ナンブトウウチソウやミヤマヤマブキショウマのような早池峰特有種が三つの調査地に共通する種となっているのは興味深い。また,一つの調査地に生育が限定している種は,調査地1で9種,調査地2で19種,調査地3では14種ある。種構成を表にすると以下のようになる。


一つの調査地限定種調査地1と調査地2共通種調査地2と調査地3共通種三つの調査地共通種
調査地1
9種
22種

7種
38種
調査地2
19種
22種
13種
7種
61種
調査地3
14種

13種
7種
34種

 二つの調査地に共通する種が見られるのは,立地環境に共通性がみられるためだと思われる。実際,立地環境が全く異なる調査地1と調査地3だけに共通する種はみられなかった。三つの調査地に共通してみられる種は,異なる環境にも適応できる種であることが考えられる。


Copyright (C) 岩手大学人文社会科学部 植物生態学研究室
初版:2002年12月25日 最終更新:2003年6月3日