八幡平における埴生回復事業に関する研究
小野寺 統
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T. はじめに
 八幡平は典型的な台地状火山で、なだらかな山容を呈している。主峰の八幡平(標高1613m)から源太森〈標高1600m)に連なる稜線上には、数多くの亜高山性山地湿原が形成され、多くの観光客や登山者が同地を訪れている。そのため、観光客による踏圧・裸地化が進行している地域が出現したため、平成5年から自然公園財団八幡平支部による植生回復事業(播種やむしろやネット張りなど)が実施されている。実施後10年を経た現在、回復がどの程度進行しているのか、現在の状況を調査し、今後の植生回復事業に対していくつかの提案を述べる。
U. 調査地
 八幡平頂上付近には、八幡沼(標高1565m)を取り巻くように湿原が広がっている。平坦面ではミズゴケからなる山地貧養湿原が広がり、斜面では積雪が遅くまで残る雪田となっている。
調査は両地域で行った(表1)。

表1 各調査区の概要

No.調査区名調査区の特性傾斜(0)流水の影響
S-1雪田裸地−1岩礫地が露出する雪田12+
S-2雪田裸地−2S−1と同じ15++
S-3雪田裸地−3S−1と同じ16+++
S-4雪田下裸地斜面下部の雪田40
S-5渓畔泥炭層裸地−1降雨のたぴに浸食する湿原8+++
S-6渓畔泥炭層裸地−2S−5と同じ5++
S-7源太分かれ裸地泥炭表層が流亡した湿原4++++

V. 調査方法
 すでに植生回復事業が行われた地域内に植生回復状況が異なる7地点に調査枠(2×2m)を設置し、出現する植物の優占度,群度,高さ等を測定し、記録した。
W. 調査結果
 S‐1では新たに進入したと考えられる15種の草本が確認されたが、植生回復作業で使用したむしろはほとんどが朽ちていた。S‐2ではむしろは流出してしまい、岩礫がむき出し状態になっており、わずかに5種が確認された。S‐3は播種されたムツノガリヤスの株が認められたが、大部分の植物は降水や融雪によって流亡したため、出現種数はきわめて少なかった。S‐4ではS‐1と同様の植物が確認できたが、ミヤマホソコウガイゼキショウが優占していた。S‐5では6種の草本が確認されたが、地表水によって泥炭土が常に流亡していた。S‐6はS15と同様の植物が確認されたが、ムツノガリヤスやミヤマイヌノハナヒゲが繁茂してした。S‐7では播種されたムツノガリヤスやヒナザクラ、イワオトギリ、ミヤマコウゾリナなど9種が確認され、良好な回復過程にあった。
X. 考察
 今回の調査結果から、植生回復事業でな2段階を想定する必要があると考えられる。第1段階(浸食の初期段階)では従来の方法(播種,ジュートネット敷き)が有効である。第2段階(浸食が進んだ段階)では表土の復元(客土)を行い、流水を堰き止め、流路を変更・固定化させ、それらの作業の後に播種、ジュートネットを敷き、さらにポット苗などを導入する。しかし、最も重要なことは早期に回復作業を始めることである。



Copyright (C) 岩手大学人文社会科学部 植物生態学研究室
初版:2006年3月4日 最終更新:2006年3月4日