研究室探訪樋口 知志
樋口 知志
HIGUCHI Tomoji
人間文化課程 【日本史】
- 横浜国立大学教育学部 (1982年)
- 東北大学大学院文学研究科博士前期課程【文学修士】 (1984年)
- 東北大学大学院文学研究科博士後期課程 単位取得退学 (1987年)
- 東北大学大学院【博士(文学)】 (2010年)
- この記事は2007年に掲載された記事を再編集したものです。
専門分野について
樋口先生の研究について教えていただけますか
ひとつは、飛鳥・奈良時代の古文書を用いた研究ですね。正倉院に遺されたものとか、各地で出土した木簡(もっかん)と呼ばれる木片に記載された書類のようなものとかを分析して、その時代に国家が行っていた統治システムなどについて研究しています。
それから、いま阿弖流為(アテルイ)の本を執筆しています。阿弖流為については、これまできちんとした史実に基づいて書かれていないんです。最近発展がいちじるしい考古学研究の成果にも多くを学びつつ、あらためて文献史料をじっくりと読み直しながら、本当の歴史の真相に迫りたいと思っています。これまでとはずいぶん違うアテルイ像が描かれると思います。
樋口先生が、歴史に興味を持ったきっかけは何ですか
僕が小学生になるころに神奈川の平塚へ引っ越しをしたのですけど、近所の古墳や城跡なんかに行ってみては、勝手に当時の様子を思い描いて楽しんでいたのが、歴史に興味を持つきっかけだったのじゃないかな。
でも、高校時代に先生から「ここは試験に出るから暗記しろよ」といわれて、暗記もそうだけど、試験のためというのも、また嫌で歴史は大嫌いな科目になってしまいました。幸い大学に入って、また歴史が面白くなりましたけど。
歴史は暗記というイメージがありますけど、樋口先生は違ったのですね
「これは出題するから覚えなさい」という勉強は、やっぱりつまらないんですね。僕の講義では、「これは覚えなくてもいいから」と前置きすることもありますし、試験も講義のノートを参照していいことにしています。要は調べることができればOKなのです。
年号とか人名を覚えることにストレスを感じるよりも、生き生きとした歴史の世界の面白さを味わってもらいたいと考えています。実は、僕も年号とか人の名前とかよく忘れるからかもしれないですけれど(笑)。
大学ならではという気がしますね
大学で学ぶということは、解答を導き出すプロセスを大事にするということです。それから、正しい答えというものにとらわれないということかな。一般的に正しいといわれているものが、なぜそうなのかと検証したり、この面では正しいけれど、別な面では正しくないかもしれない。そういう批判的な見方が、ことさら必要になってきます。例えば、教科書においても、現在の記述と20年前の記述、さらに30年前の記述では、内容の異なるところがたくさんあります。それは、古い学説から新しい学説に変わったからです。つまり、学問とは、なぜそれが正しいかを検証するところから始まることが多いのです。
講義について
大学で学ぶのに大事なことは何でしょう
自分自身の見解を述べてみるという事ですね。根拠や材料を掘り下げて、自分の頭でどういったことなのだろうと考えることです。
以前、講義で「僕の言うことを信用するな」と言っていました。どんな立派な人が語ろうと、本に書いてあることだろうと、必ずしも正しいということはない。ましてや、僕の講義を信じるな!疑え!ということです。乱暴かもしれませんけれど、これが10年前位まで効果てきめんで「先生はこう言ったけど、本当はこうではないのか」と学生は突っ込んできましたね。最近の学生だと「私たちは何を信じればいいの」と絶望的な顔をするのが多い。ちょっと寂しいかな。
高校生へのメッセージ
必ずしも学問を最優先しなければならない時代でもない。そのうえで言えるのは、やはり大学でしかできないいろいろな経験を大事にしていってほしいということですね。