研究室探訪渡部 あさみ
渡部 あさみ
Watanabe Asami
地域政策課程 【経営学】
- 高崎市立高崎経済大学 経済学部 経営学科 卒業 (2006年)
- 高崎市立高崎経済大学大学院経済・経営研究科現代経営ビジネス専攻博士前期課程 修了 (2008年)
- 明治大学大学院 経営学研究科 博士後期課程 博士(経営学) (2014年)
専門分野について
先生の研究内容を教えてください
私の専門は、経営学、とりわけ人的資源管理論です。経営学は、企業、および企業行動を主たる対象とした学問です。企業には、四つの資源があると言われています。それは、ヒト・モノ・カネ・情報です。私が主たる対象としているのは、その四つのうちのヒトという資源です。このヒトという資源をどう見るのか。企業にとっての資源である“ヒト”は、企業の四つのうちで最も複雑な資源ではないでしょうか。なぜなら、企業におけるヒトの「働き方」・「働かせ方」ということを考えると、ヒトという資源は、その日の気分や体調、仕事や家庭の状況によって、顕在化する力が異なるからです。このヒトという資源をいかに効率的に活用することができるのか、どうすればたくさんの仕事を効率よくさせることができるのか、これが企業の人的資源管理にとって大きな課題です。一方、複雑な資源であるヒトをめぐっては様々な問題が起きています。それは、企業における「働き方」・「働かせ方」の結果として起きる労働問題です。労働問題は様々ありますが、それらの労働問題はいかに発生しているのか、企業の人的資源管理との関係性に目を向けることも重要な研究テーマとなっています。
続いて、私自身がどのような研究をしているのかというお話をいたします。私の主たる研究テーマは、先進諸国における長時間労働と企業における「働き方」・「働かせ方」です。この問題をテーマに研究をしようと決めたのは大学生の時ですが、幼い時から、なぜ日本の労働者はあくせく、しかも、長時間働くのか不思議に思っていました。先進国である日本において、なぜ、過労死・過労自殺に至るまでの長時間労働が起きるのか。しかも、長時間労働に従事する労働者の多くは、正社員のホワイトカラー労働者であり、それなりに恵まれた環境にいるはずである労働者であるという印象があったのにも関わらず、なぜ死ぬまで働かなくてはいけないのだろうか―――。こうした問題意識のもと、研究活動を始めました。大学院生のときに、ある講義のなかで、長時間労働の末に自殺をした方々の遺書を見せていただく機会がありました。震える手で、最後の最後まで自分自身を責めて、お亡くなりになった方々の心の叫びのようなものに触れたことは、私の研究生活に大きな影響を与えました。長時間労働を生み出すような企業における「働き方」・「働かせ方」は、果たして人間らしい「働き方」・「働かせ方」(持続可能な開発目標(SDGs)のうちの一つである「ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)」)とは、決して言えないと考えています。そうした想いを胸に、日本の労働時間をいかにして適正化していくことができるのかという関心のもと、働き方改革に取り組む企業への聞き取り調査や、国内外における人的資源管理と労働時間管理に関するアンケート調査を通じ、考察を深めています。
講義について
どういった内容の授業を行いますか
私が主に担当している講義は、「経営学総論Ⅰ・Ⅱ」です。これは、経営学にどのような専門領域があるのか、そして、それらの基礎的な理論とはいかなるものなのかを学ぶ講義です。経営学と一言で言っても、その学問領域は決して狭くはありません。私の専門であるヒトに関する専門領域においても、人的資源管理論、経営組織論、組織行動論、リーダーシップ論、モチベーション論など多岐に渡ります。このほか、企業論、コーポレート・ガバナンス論、国際経営論、マーケティング論、中小企業論、非営利組織論、公共経営論、環境経営論、経営情報論等、経営学の専門領域は様々です。私が担当している「経営学総論Ⅰ・Ⅱ」では、経営学と呼ばれる学問領域において、どのような専門領域があるのか、また、それぞれの専門領域においてどのような問題が取り扱われているのかについて、基礎的理論を学びます。また、講義では、その講義内で学んだ基礎的理論をもとに、私たちが生きる社会において起きている問題について考察をする目的のもと、新聞記事を読むようにしています。
学生にはどういった力を身につけてほしいですか
私が、学生自身に気づいて欲しいと考えているのは、私たちが住む社会において、企業と私たちの関わり方にいかなる論点が存在しているかということです。企業活動は、この社会で生きる人々の衣・食・住のすべてに関わっています。私たちと企業活動の関りは、非常に多面的です。私たちは、ある時には、企業が提供する商品・サービスを購入する消費者であり、またある時には、企業で働く労働者にもなります。企業活動と私たちの生活は、密接に関わり合っているからこそ、そこに存在する問題に気が付かずに過ごしていることが多々あるのです。
「経営学総論Ⅰ・Ⅱ」をさらに深めていく「経営学演習」においては、日々の生活において気付かずに過ごしていたことに気づくということを目的に、文献研究を行っています。文献研究を通じ、この社会に存在する様々な問題について、経営学を主軸とした視点に基づき議論し、考察を深めています。また、ゼミ生それぞれの研究テーマについて研究報告をし、ゼミ内での議論を通じて、卒業論文をまとめています。ゼミ生の研究テーマは、長時間労働をはじめ、キャリアやモチベーションに関する問題、女性労働、非正規雇用、障害者などに関する労働問題、中小企業を取り巻く問題、マーケティング、企業の社会的責任に関するものなど様々です。さらに、経営学演習では、企業経営の実態を学ぶ機会を大切にしており、企業へのインタビュー調査を実施しています。2021年度からは、大学生を対象に入職前における労働に関する意識調査も実施する予定です。以上の活動を通じ、「経営学演習」では、企業・企業活動に焦点を当て、「経営学を通じて社会と対話する」姿勢を大切にしながら、理論と実態を往復する力を養っています。
高校生へのメッセージ
日々の生活における習慣やルールなどについて、何か腑に落ちないことや、不思議に思うことはありますか。日本における当たり前について、「なぜ、こうなのだろうか?」と思うことがあったら、ぜひ国際比較をしてみてください。日本における当たり前は、もしかすると、日本国外では当たり前のことではないかもしれません。また、なぜそのようなことが起きるのか、その発生要因を調べてみましょう。それは、簡単なことではありませんが、自身の問題意識に沿って調べ、考えていくという行為はどきどきわくわくの連続です。「なぜだろう?」という知的探求心を大切に、素直な気持ちでご自身の問題意識と向き合ってください。皆さんの知的好奇心に触れながら、共に学べることを心より楽しみにしています。