研究室探訪梁 仁實
梁 仁實
YAN Inshiru
人間文化課程 【人文科学】
- 東京学芸大学大学院地域研究コース修了【修士(学術)】 (2001年)
- 立命館大学大学院社会学研究科博士後期課程修了【博士(社会学)】 (2004年)
- この記事は2012年に掲載された記事を再掲載したものであり、改組前の学部の内容が含まれています。
専門分野について
国際文化課程で学ぶ魅力を教えてください
国際文化課程は、アジア文化コースと欧米言語文化コース、そして文化システムコースの3つに分けられます。アジア文化コースでは中国と日本の、また欧米言語文化コースではドイツ・フランス・ロシアなどの欧米諸国について、その歴史や文化、それに英語を含めた言語を学ぶことができます。ロシアの言語と文化を学べるというのは東北の大学では珍しいと思います。これら3つのコースのうち、私が所属しているのは文化システムコースというところなのですが、5名の先生がおり、それぞれの専門に分かれ専門に沿った形で授業をしています。それぞれが違う専門のところを教えているので、学生たちが現代社会におけるさまざまなことに対して興味を持ち、幅広く考えていくことができるのかなと思います。
文化システムコースではどのようなことを勉強するのでしょうか
私が担当しているのは社会文化論で、授業では主に映像メディアを取り上げています。学生たちにアメリカや中国・韓国などの海外映画やドラマを見てもらうのですが、その中に“外国人がイメージする日本人”が出てくることがあります。それを見て、日本人が海外でどのようなイメージを持たれているか、また、反対に日本映画の中に登場する外国人を見ることで、日本人が抱く外国人のイメージを知ることができます。最近では韓国のポピュラーカルチャーというものが日本で流行っていますが、その歴史をたどってみると2000年以降ではなく、それ以前から日本と韓国の間でポピュラーカルチャーを媒介とした交流が盛んだったことがわかります。そういった歴史的な背景も含め、さまざまな文化を学んでいます。
先生が研究されているテーマと内容について教えてください
私はずっと、映像メディアについて研究しています。最近は授業の中でもポピュラーカルチャーを媒体とした日韓の交流史を学んでいますが、面白いのは、近年、ある文化が国境を超える際にその中身が変わることがあるということです。例えば、韓国でとても有名なKポップスターたちが来日し、日本の番組に出演する際、韓国で出演していた時とは違う服装をしていたり、韓国で話していたこととは違うことを話したりします。それに、日本で歌う歌と韓国で歌う歌が異なっていたりする場合もありますね。またドラマや映画でも、韓国で公開されていたタイトルが日本に来る時に日本語に翻訳され、全く別のタイトルになったり、さらには中身も翻訳され、変わっていく場合があります。国境を超える時になぜそのように変化してしまうのかというところに興味があり、研究しています。最近のことだけを取り上げるのは少しつまらないので、1920年代(戦前)から現代までのことを歴史的にたどっていくということを行っています。
講義について
学生にはどのような指導を心がけていらっしゃいますか
高校までの教育の中で、学生たちは芸能などの伝統文化や東北文化など「目に見える形の文化」はけっこう習ってきたと思いますが、私は人々の“考え方”や“価値観”といった「目に見えないもの」も文化だと考えています。それに、それら文化はいつでも変えることが可能なものだと思うのです。だから文化を学ぶ上で学生たちに考えてほしいのは、そもそも文化というのは何なのか、また、それを変えて行くためにはどうすればいいか、あるいは変えない場合にはなぜそれを変えなくてもいいのかなど、そういうことに注目し考えてほしいと思います。ただ、私が「考えてください」と投げかけると学生たちは嫌がるんですけどね(笑)。一方的に教えるというよりは、互いに考えさせられるような形で授業をしていくことを心がけています。そういうことにまだ慣れていない学生たちは戸惑ってしまうかも知れないですが…。
「目に見えない文化」というと、どのようなものがあるのでしょうか
例えば、わたしは2011年の3月まで京都府に住んでいましたが、京都では電車のドアに開閉ボタンは付いていません。東北地方では電車の乗降の際にドアの開閉ボタンを押さないと扉が開かないのですが、東北の学生たちは、それを当たり前のことと考えています。冬が厳しい東北地方は、乗り降りの際に寒気が入らないようにドアを手動で開け閉めする仕組みになっているのですが、そのようなシステムは東北地方以外の場所ではありません。しかし、東北に住む人の中にはそれを日本の電車の特徴と思っている方もいらっしゃいます。また、以前に授業の中で青森県出身の学生が「青森では赤飯をこのような場面で食べます」という話をしたら、岩手県出身の学生が「岩手ではそういう文化はないよ」と話し、皆で話し合ったりしたこともありました。このように、日常生活において日本全国で当たり前の文化だと思っていることが、実は当たり前ではなくその土地だからこそ生まれた“地域の文化”であることも数多くあります。そのような習慣的なことは、あまり日常生活の中で考えるきっかけがないと思いますので、学生たちにはそれを考え、話し合うきっかけを提供したいと考えています。
世界の文化だけではなく、身近なところにある文化も含め勉強するのですね
私が世界の文化を全て知っているというわけではないですし、日本の文化でもわからない部分もあります。学生たちは皆、自分が日本人だと思っていますが「ではなぜ自分が日本人だと思うの?」と問いかけると、大抵の学生は「日本で生まれ、両親が日本人だから」と答えます。しかし、だからと言って日本のことを全部知っているわけではないですし、できるだけ身近なところで感じられる文化の中から授業で取り上げる話題を見つけていきたいと思っています。
これから社会へと出て行く学生たちに期待するのはどのようなことですか
課程の名前が「国際文化」ですので、国際人になってほしいと思います。日本では国際人というと“英語が話せる人”を指すように思いますが、そうではなく、日本に住んでいても日本のことがよくわからないと思いますのでアジア文化コースで日本のことを学んだり、あるいは欧米言語文化コースで欧米諸国について学んだりするのもいいことだと思います。また、文化システムコースでは現在日本の社会において起きていることについて私たちがどのように考えればいいかということをそれぞれの先生が授業で行っていますので、それぞれの先生のところへ行って話を聞くことで現代社会のことや日常生活の中で起きているさまざまな複雑な現象を学び、すっきりと明確にさせることができます。そのような学びを経て卒業すれば、もう少し社会を見る目や、自分が所属しているこの世界を見る目、また、日本と世界におけるあらゆるつながりなど、そういった複雑なところを見る目・考え方というのが少し変わっていくのではないかなと思います。そのためには授業だけではなく、図書館で一生懸命本や新聞を読むことも大切かと思います。
高校生へのメッセージ
これは国際文化課程だけではないのですが、大学では高校までとは全く違う生活が待っています。全てのスケジュールを自分で管理しコーディネートしていかなければなりませんので、早めに目標を設定し、それに向かって授業のスケジュールを組んでいくといいと思います。それから、できれば図書館を積極的に利用すること。岩手大学は地域住民に開かれている大学ですので、地域住民であれば誰でも図書館を使うことができます。大学の図書館だけではなく県立図書館なども積極的に使って自分が知りたい情報をたくさん集め、さまざまなことに挑戦していくという“チャレンジ精神”が必要なのではないかと思います。あとは先生のところに積極的に訪ねて行くことです。高校までは、先生たちは教務室に座っていましたので行けばすぐに会えたのでしょうが、大学では先生たちは一人ずつ自分の研究室にいます。先生たちが自ら先に学生に声をかけるというのは大学ではあまりないことですので、積極的にアポイントを取り、自分から会いに行くという積極性が求められます。高校までとは違う生活をやっていこうという気合いも必要かなと思います。