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宮沢賢治いわて学センター 第24回研究会のご報告
名 称: 岩手大学人文社会科学部 宮沢賢治いわて学センター 第24回研究会
(旧・岩手大学宮澤賢治センター第129回定例研究会)
日 時: 2024(令和6)年1月30日(火)17:00~18:20
形 式: オンライン形式(Zoom Meetings)
講 師: 黄 毓倫 氏(お茶の水女子大学大学院博士後期課程/日本近現代文学)
演 題: 「銀河鉄道の夜」の台湾閩南語訳
──失われつつある「母語」(mother tongue) の記憶を辿って──
司 会: 木村直弘(当センター副センター長)
参会者: 42名
【発表要旨】
本発表は、2022年7月に台湾・台北の前衛出版社より刊行された、「銀河鉄道の夜」の台湾閩南語訳本『銀河鐵道ê暗暝』(訳/陳麗君)の紹介をはじめ、台湾の歴史を辿りながら、発表者にとって失われつつある「母語」(mother tongue=親の言語)である台湾閩南語を再認識した上で、翻訳対象に「銀河鉄道の夜」が選ばれる理由及び意義を探る試みである。
17世紀以来、台湾閩南語は中国からの移民と共に台湾の土地に根ざしていたが、日本統治時代(1895~1945)に入って、人々は日本語で教育を受け、さらに1937年以降の「皇民化運動」により、「日本人になる」ことが求められていた。戦後、中国国民党の「国語教育」により、今度は北京語ベースの「台湾華語」が唯一の「国語」として台湾の言語環境に君臨していた。台湾閩南語(及び客家語、原住民語)は長い間抑圧され、かつて宣教師たちにより体系化されたラテン文字表記の「白話字」も忘れ去られてしまった。
2019年に「国家言語発展法」が制定され、台湾閩南語はようやく「国家言語」の一つと認められるようになった。「多面体」と形容される賢治が紡ぎ出す作品世界には、言語をもって世界を認知し、思考できる人間を育成するという「母語教育」の目標を実現させる可能性が秘められており、台湾において最先端のトレンドの一つである「台湾閩南語の再発見」の過程で、賢治作品が注目されることにも繋がると考えられる。