研究室探訪岡部 祐佳

岡部 祐佳

OKABE Yuka

人間文化課程 【日本文学】

  • 上智大学文学部国文学科 (2015年)
  • 大阪大学大学院文学研究科文化表現論専攻日本文学専門分野 (現 人文学研究科日本学専攻基盤日本学コース日本文学・日本語史学分野)【修士】 (2017年)
  • 大阪大学大学院文学研究科文化表現論専攻日本文学専門分野 (現 人文学研究科日本学専攻基盤日本学コース日本文学・日本語史学分野)【博士】 (2022年)

掲載日


専門分野について

先生の研究内容を教えてください

専門は日本近世文学(江戸時代の文学)です。とくに、手紙の文章を中心にストーリーが展開していく、「書簡体」と呼ばれる形式を持つ文芸作品を主な研究対象としています。日本近世文学の研究者のなかでも、やや珍しい切り口で研究をしている人間なのではないかと思います。

飛脚制度が整備され、庶民層の識字率が向上した江戸時代には、それより前の時代に比べて多くの人々が書簡を読んだり書いたりできるようになりました。また、出版技術や商業出版が発達するなかで、手紙の書き方を指南する手引書なども盛んに出版されるようになり、それらの書物は多くの読者を獲得していました。そのような時代背景が当時の書簡体文芸にどのように反映されているかを、明らかにしたいと考えています。

また、江戸時代の書簡体文芸の多くは現在ほとんど知られておらず、歴史の中に埋もれてしまっていると言ってよい状態です。先ほど述べた「手紙の書き方を指南する手引書」のなかにも、読み物とみなして差し支えないような内容を持つものが数多くありますが、それらに関する文学的観点からの研究はほとんど進んでいません。そういったものにもしっかりと目を配りながら、江戸時代の書簡体文芸の全容とその歴史的変遷を解明することが、現在の私の最も大きな目標です。

日本文学に興味を持ったきっかけを教えてください

大学進学の際に国文学科を選んだ理由は、単純に本を読むことが好きだったからです。また、国語という教科に苦手意識を持っていなかったこともあり、「勉強についていけなくて困ることはないだろう」と安直に考えていました。そのようなモチベーションでしたから、はじめから「研究者になりたい」という希望を持っていたわけではありません。しかし、大学の授業を受けるうちに本格的に研究の道を志すように、といいますか、「ずっとこんなことをしながら生きていけたら楽しくて幸せだろうな」と思うようになりました。

とくに印象に残っているのは、井原西鶴の『万の文反古』という作品から1話を取り上げて考察した授業です。先行研究や他の西鶴作品、あるいは同時代の社会状況に関する文献などを参考にしながら、自分なりの解釈を考えて発表しました。その調査や考察の過程がとても楽しく本当におもしろかったことを、今でも鮮明に覚えています。

こうしてみると、あらかじめ決められた1つの「正解」への道筋を辿るだけではなく、場合によっては通説と異なる解釈も成り立ちうるという文学研究の奥深さを知ったことが、私にとって大きな転機だったのではないかと思います。

講義について

どういった内容の授業を行いますか

人文社会科学部の専門科目としては、日本文学講義・日本文学特講・日本文学講読・日本文学演習があります。このうち、演習は日本文学で卒業論文を書く学生が履修する科目となっていますので、それ以外の授業について簡単に説明します。

講義では日本の文学史を学びます。A~Dの4科目が設けられており、上代・中古、中世、近世、近現代の文学の流れを、同時代の社会状況とも関わらせながら講義します。単なる事項の羅列にならないよう、必ず作品本文に立ち返って説明することを心がけています。

特講では、日本の文学作品を分析するための視点や方法を学びます。一口に文学作品を「読む」といっても、その切り口は多種多様です。どのような視点や方法があるのかを知り、それをどのように作品分析に活かしていくのかについて、実例を示しながら説明します。

講読では、日本の文学作品(おもに古典)を読解する能力を身につけます。講義や特講とは違い、学生自身が調査・考察した結果を発表し、それについて全員で議論していく形式の授業です。辞書を引いたり同時代の作品や資料を調査したりすることで、たとえ注釈や現代語訳が万全に整っていない作品であっても、自分たちの力で読み解けるようになることを目指します。

講義で気を付けていることはありますか

レスポンスカードによって受講生の意見を聴取し、それを講義室全体にできるだけ共有することを心がけています(紹介は匿名で行っています)。

岩手大学人文社会科学部は主副専修制度を導入していますので、より多様な興味・関心を持った学生が私の授業を受講しています。なかには、歴史や語学、外国文学、ジェンダー論、心理学など、他の講義で学んだ内容と関わらせながら考えを深め、レスポンスを記入してくれる学生も少なくありません。そういったレスポンスは、私の授業だけでは決して補いきれない、新たな「学び」を生んでくれるものです。それを教室全体に共有することで、講義を一方的に聞いているだけでは得られにくい、多角的な視点を育む機会を得ることができると考えています。

高校生へのメッセージ

「文学って面白―い!」

これは、日本文学演習の授業中に、ある学生が発した言葉です。そう、文学って面白いのです。

では、どこが面白いのか。それはきっと、人それぞれ異なるはずです。好きな作家や作品が同じでも、そのどこに魅力を感じるのかは人によって違ってくるでしょう。また、自分でもよくわからないけれど、なんとなく惹かれるということもあると思います。「大学での学び」や「研究」といわれると難しく感じるかもしれませんが、きっかけは「好き」や「面白い」で十分ですし、それが「なんとなく」でも構わないのです。というよりもむしろ、「なんとなく」でもその感覚を持っているということは、研究の入り口に立つための最も重要な要素であると言っても過言ではありません。なぜなら、そういった感覚は「大学での学び」や「研究」にとって必要不可欠であるにもかかわらず、誰かに教わることで身につけられるような類のものではないからです。

しかし、ずっと「なんとなく」のままでいいのかというと、それは違います。レポートや卒業論文を書く際には、自分でもうまく説明できない「なんとなく」の感覚を見つめ直し、突き詰め、さらに人に納得してもらえるように言語化していく必要があります。大学の授業では、そのために必要な論理的思考能力や多角的に物事を考える力、表現力といった能力を養うことができます。そしてこれらの力は、大学だけでなく日常生活のあらゆる場面や卒業後の人生においても、きっとみなさんの心強い助けとなるはずです。

これまでに述べたことは、なにも日本文学に限ったことではありません。大学は、自分の好きなことや面白いと思うことに心ゆくまで打ち込みながら、人間社会で生きていくために必要な素養を身につける場所なのです。だからこそ、高校生のみなさんには、自分の興味関心を尊重した進路選択をしてほしいと思います。きっと、素敵な大学生活が待っていることでしょう。

そして、もし日本の文学が好きだという方がいらっしゃったら、ぜひ岩手大学人文社会科学部の日本文学研究室でともに学びましょう。みなさんの入学をお待ちしております。


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