研究室探訪長谷川 弓子

長谷川 弓子

HASEGAWA Yumiko

人間文化課程 【スポーツ心理学】

  • 甲南女子大学文学部人間関係学科社会学専攻 (1998年)
  • 中京大学体育学研究科スポーツ認知・行動科学系【修士】 (2009年)
  • 同【博士】 (2013年)

掲載日


※令和6年度入学生 及び令和8年度編入学生からスポーツ科学専修プログラムの受け入れを停止します。
ただし、スポーツ科学に関連する科目は継続して開講します。

専門分野について

先生は今どんな研究をされているのでしょう

スポーツ心理学における4つの領域のうち「運動制御」あるいは「運動学習」と呼ばれる領域が私の専門です。分かりやすく説明すると、私たちは生まれたばかりでは自分でコップの中の水を飲むことはできませんし、ペンを上手に動かして字を書くこともできません。一つ一つを何度も練習していくことによって経験を積み、徐々にできるようになっていくわけです。それをスポーツで考えると、上手な人と下手な人とでは動きがどう違っているのか、あるいは同じ運動を繰り返したときに同じように繰り返すことができる人と、できない人とでは何が違うのかという問題にもつながっていきます。「運動学習」は、運動技能の習得について科学的に考えることで、上達のボトルネックを解明していこうと考える領域です。この研究の中で、私が特に興味を持っているのは動きのスマートさです。スポーツの熟練者はフォームも美しいですよね。スマートな動きがどのように達成されているかということに関心があります。さまざまな条件のなかで、動きがスマートな人とそうでない人とではどう違うのかといったことを計測し、その動きを生み出す違いについて考えていきます。私たちの脳は情報処理装置であり、パソコンに例えるならば、入力されたものを処理して判断し命令を出すCPUです。心理や思考などの情報処理過程は外部から見えないので、与える情報や周囲の環境を変化させ、出力される動きを計測することによって、その過程を推測します。

この研究をされたきっかけとその魅力についてお伺いしたいです

ゴルフをしてきた経験から、現場で感じてきた問題を少しでも解決したいということが研究の原点です。自分ができなかったことを解決したい、納得したい、知りたいという思いで、この道に進みました。

研究課題としては、ゴルフのパッティングにおける問題を扱っておりまして、こういう条件下ではこのような動きが出てくるというのを数値化させるわけですが、そのように結果が数値として明確に出てくるのが面白いところです。競技者の目線では、頑張っても成果が出ないというケースも多いですよね。そうして見えない壁にぶつかって乗り越えることが難しくなる場合があります。でもこうして科学的に分析すれば、原因の解明に近づくことができると思いますし、それによってアプローチの仕方も分かってくるわけです。実験によって分かったことを、指導法の改善につなげていければいいなと思っています。

リハビリなど医療の分野にも応用していけそうですね

関連資格を取得するコースはないのですが、運動制御や運動学習などについてはリハビリにも役立てることができると思いますし、介護や医療関係にも必要不可欠な知識です。「スポーツ」という言葉が付いてはいますが、それに限定することはありません。心と身体の問題はどんなジャンルにもかかわってくるものですので、哲学だったり、脳科学だったり多様な分野に関心を持つことで研究に深みが増していきます。私もあらゆる視点を大事にしながら考えることで、人の幸せのために少しでも貢献していきたいです。

講義について

スポーツ心理学では、どんなことを学べるのでしょうか

名称に「心理学」と付いているので、皆さんが真っ先に思い浮かべるのはメンタルトレーニングについてだと思うのですが、精神面だけでなく身体の動きもあわせて考えるのが、スポーツ心理学です。スポーツ心理学は私の研究領域である「運動制御・運動学習」をはじめ、「スポーツと社会心理」「スポーツと臨床」「スポーツと動機づけ」と大きく4つに分かれています。「スポーツと社会心理」は、チームビルディングやリーダーシップといった「集団」における問題と、スポーツと個人のパーソナリティのような「個」の問題を扱う領域です。「スポーツと臨床」ではメンタルトレーニングや燃え尽き症候群「バーンアウト」などの問題を扱います。「スポーツと動機づけ」では、原因帰属、目標設定、やる気などの関連について学びます。学生にとっては「どうやってやる気を維持しながら競技力向上につなげるか」という現実的な問題に結びつけやすく、最も興味のある領域のようです。動機づけは、実際にスポーツを取り組む際にはとても重要な問題です。やる気の性質と、その人の持っている目標やパーソナリティとがどう関連していくかなどを考えます。

自分がそのスポーツをしていて楽しいとか、自分自身の成長が嬉しいとか、その課題自体に面白味を見出すタイプ「課題思考」と、より少ない努力でいかに目標を達成するか、あるいは人と比較して自分がどうかということに重きをおく「自我思考」というタイプに分けることができるのですが、そうした目的に対する考え方が後の行動にどう関わってくるのかといったことは重要ですね。特に今現在、自分自身が競技者である学生にとっては身近な問題なのだと思います。

実際の競技にも学んだことを生かせるということですね

学習したことを実際に自分で取り組んでみることもできますし、誰かをサポートすることにも役立つと思います。プレッシャー下で最高のパフォーマンスを発揮するための心掛け、どうすれば挫折を乗り越えることができるか、などについて考えることは、運動指導にも生かせると思います。私自身スポーツメンタルトレーニング指導士としても活動しておりますので、将来的に運動指導の仕事に就きたいという方にも積極的にアドバイスをしていきたいと考えています。

先生は元プロゴルファーということで、その経験を学生たちに話されることもあるのでしょうか

そうですね。ゴルファーとしての経験はあくまでも主観的なものではあるのですが、難しい課題に直面したときに私自身がどう感じたかとか、何を考えたかといったことも機会があれば授業で話すこともあります。物事は、何か一つ絶対的な答えがあってそれだけやっていれば全てうまくいくということじゃないですよね。ある方法でうまくいっても、次の機会にその方法を用いれば必ずうまくいくとは限りません。ですので、例えば勉強したことが全て正しいわけではなく、その場の環境に合わせ自分なりにやり方を変えていくことが大切です。将来的にスポーツ振興を通して地域活性化を目指す仕事に就いたり、スポーツインストラクターとして活躍したりする学生もいると思いますが、私の授業を通して、一つの答えに縛られない社会人になっていってほしいですね。


学生のコメント

「スポーツ科学」「スポーツ心理学」の課程は、まだできたばかりの新しいプログラムで、私たちが最初の学生です。教育学としてのスポーツではなく、スポーツを科学的な視点から学んでいきたいという思いで、この課程を選びました。現在は、体の構造を知った上でより効率的な動かし方はないかと探ったり、スポーツが地域社会に果たす役割を学んだりと、科学的なテーマから社会的な問題まで、幅広く学習しているところです。長谷川先生の授業は、人間の身体の動きをコンピューターの理論に基づいて解明していくという内容が面白いですね。人体の奥深さに驚きます。

まだ私は2年生なので進路は確定していないのですが、一つの選択肢として考えているのは、スポーツ振興に携わる公務員です。今行政は、地域でのスポーツ普及に力を入れています。自分の学んだことを生かして社会に貢献していきたいです。

もともとソフトボールをやっていてスポーツに興味があったので、将来的に子どもからご年配まで、幅広くその魅力を伝える仕事がしたいと思い、スポーツ科学を学ぶことにしました。魅力といっても競技としてだけでなく、例えばご年配だと運動は健康寿命を延ばす重要な要素ですし、子どもにとっては体力向上のために必要なことです。生涯スポーツを促進することは、地域の活性化にもつながります。年齢によってモチベーションの維持方法も変わってきますので、より良い方法を考えられるよう、今後学習を深めていけたら。

長谷川先生は、元プロゴルファーということでご自身の貴重な経験も話してくださるので、非常に面白く参考になります。授業の内容も、身体の動きについて理論から学ぶことができるので、スポーツだけでなくさまざまな分野に応用できそうです。これから自分自身の可能性を広げながら、将来誰かの役に立てる人材になれるよう研究を進めていきます。


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