研究室探訪松林 城弘

松林 城弘

MATSUBAYASHI Kunihiro

人間文化課程 【言語習得論・機能的統語論・言語教育論】

  • 同志社大学文学部英文学科【学士】
  • 兵庫教育大学大学院学校教育研究科教科領域教育専攻言語(英語)コース【修士】

掲載日


専門分野について

岩手大学で欧米言語文化を学ぶ魅力について教えてください

当大学の人文社会科学部が掲げる理念は「総合化」と「専門深化」です。富士山を例に考えると分かりやすいのですが、富士山は裾野に雨水や緑、鉱物を溜め込んで広がり、その上に高い山が立っています。その裾野部分が学習における「総合化」に当たり、1年生のうちは人間科学、芸術、現代文化など人間文化課程にあるプログラムを通して広い知識を身に付けていき、2年生になるとその基礎をさらに深く学ぶことでその裾野を広げていくという形です。3年生以降になってから、それまで広げてきた裾野の上に「専門深化」の山を築いていきます。裾野部分が広くなければ、山も高くなりません。ですので、自分のやりたい研究を深いところまで進めるには、2年生までにいかに幅広く基礎的な学習をするかにかかってきます。当大学の人文社会科学部は必修単位が125単位、そのうち教養科目が43単位もあり、興味さえあればどんどんその知識を広げられる環境が用意されておりますので、ぜひ意欲的に勉学に励んでほしいと思います。

英語を専攻する学生は、4年生になると卒論の中間発表として英語で自分の研究をプレゼンすることになります。1人20分の持ち時間で、正確な文法や抑揚等メリハリの付け方なども考えなければなりませんので、けっこうな英語力が必要です。最終的には、自分の研究を深められるのはもちろん、それを英語で的確に表現し他者へ伝えることができる人材に育てます。

先生は言語学の授業を担当されているそうですね

私の主な専門は言語習得論と言語教育学習論の2つです。母語と外国語に関する知識・性質の違い等を明らかにしながら、人がどのように言語を習得するのか、どういう段階を経て言語を身に付けていくのかなどを考える授業を行います。具体的に内容を挙げると、動物と人とのコミュニケーションの差異、育った環境による言葉遣いの違い、脳の発達と言語習得の関係などです。

脳との関わりについては、例えば私たち日本人は義務教育で6年以上英語を学んできているのに、あまり身に付いていないということがよく問題になりますが、それは何故かということを考えたときに、一つの仮説として「言語臨界期」というものがあります。これは、12歳くらいまでは左脳・右脳両方を使って言葉を処理していたのが、思春期を過ぎたころにその役割が左脳に移ってしまうため、12歳前後を境に言語の習得が難しくなるという仮説です。この立場からすると、中学生から英語の学習を始める教育制度は効果が出ないということになります。最近学習指導要領が変わり、小学校から外国語学習をスタートするということになりましたが、その背景には「言語臨界期仮説」があるというわけです。このように、言語習得論は脳との関わりという意味では科学の視点が必要になってきますし、環境からの影響という部分では社会学的な勉強も大事ですので、多様な分野の中から研究テーマを選ぶことができる魅力的な学問だと思います。卒論の題材もさまざまで面白いですよ。

講義について

講義で気を付けていることはありますか

配布するプリントは、学生たちが自分の言葉で完成させられるよう穴埋め形式にし、授業の内容も能動的に自分の頭で考えられるようにということを念頭に置いています。例えば言語学習観の変遷について簡単に説明すると、かつてはひたすらドリル等をこなしながら覚える学習法が推奨されていたのですが、現代は他者と会話をすることで言語を覚えるという教授法が主流です。実際に学生同士英語で会話をしてもらうことで、その効果を実感してもらうということをしています。

それから、実例を出して問いかけることもよく私がしていることで、先ほど話した「言語臨界期仮説」の授業では、ジーニーの例を紹介しさまざまな意見を出してもらいます。ジーニーは、1970年代カリフォルニアに生まれた子どもで、12歳で救出されるまで虐待によって外の世界との交流がなく、意思疎通能力が発達しませんでした。果たしてこれは「臨界期仮説」を証明するものなのかどうか、学生たちに疑問を投げかけ考えてもらいます。年齢による言語習得能力の問題ではなく、虐待という特殊な環境が言語の習得に影響を及ぼしたのではないかと考えることも可能です。あるいはもっとほかの原因があるかもしれません。さまざまな意見を出してほしいと思っています。

先生の授業をとった卒業生の進路は、やはり英語に関係するものが多いのでしょうか

私は英語科教育論も受け持っておりまして、この授業を受けると教職免許を取得することができるということもあり、中学校・高校の英語教師になる学生が多いですね。公務員もおりますし、英語を生かしたいということで、航空会社、ホテル関係、旅行業界などに就職する方もいます。

当ゼミの前期ではそれぞれが興味のある文献を読んで知識を広げ、後期ではそれを発表しますので、言語に関する理解が深まるのはもちろん、さらに自分の考えを英語でしっかり伝える能力も身に付きます。ぜひここで言語のプロフェッショナルとして成長してください。

言語習得論と言語教育学習論の研究を通して、今後実現したいことなどはありますか

先に話した通り、今は時代の流れとして小学生から英語学習を開始するということになっています。学習を始めるにあたっては、見たり聞いたりということを中心にして、文法はあとからで良いのではないかという意見もあるのですが、私は小学生から文法を学ぶことが必要だと考えています。しかしながら、文法が難しいのは事実です。そこで、例えばイメージで理解できるような方法を考えたいと思っています。現在完了形や不定詞も、コア文法で分かりやすくすれば感覚で身に付くのではないかなと。その効果的な教え方を探っていきたいですね。

もともと私は中学校・高校で英語を教えていて、そのうちに言語学習のメカニズムに興味を持ち大学院で研究を深め、高専で教壇に立った後ここ岩大に来たという経緯がありまして、一通り教育機関を経験してきたのですが、小学校で教育に携わったことがありませんでした。ですので、今力を入れている研究を進めることで、小学校にも英語教育という面で貢献できればという気持ちです。

高校生へのメッセージ

大学に入ってのびのびと自分の研究をするために、高校生のうちからさまざまなことに疑問を持ち、考えることが大事です。特に英語学習をする上では、単に語句や文法などを暗記するのではなく、「なぜ不定詞を使うのか」「現在完了のhaveとは何か」といったように、常に疑問を感じながら学んでほしいですね。そういう姿勢があれば、入学してから楽しく興味を掘り下げていけると思います。


学生のコメント

4年Aさん

もともと海外に関心が高かった私は、高校2年生でアメリカへホームステイに行き、3年生でも別のプログラムで渡米しました。岩手大学に入ってからは交換留学制度を利用し、2年生から3年生にかけ約1年間アメリカの大学に通い貴重な経験をさせていただきました。授業も全て英語ですし大変な部分もありましたが、現地の人と交流もできて充実した1年になったと思います。これからこの大学に入ろうと考えている方にも、交換留学はおすすめしたいですね。

今私は脳と言語習得について興味があり「言語臨界期仮説」をテーマに学習を深めています。言語学の研究は教育分野に結び付いているため社会にも貢献できますし、自分自身の言語学習に役立てるという意味で個人の目標にも重なるものです。就職してからも、ここで培った知識と英語力を生かして活躍していきたいと考えています。

4年Bさん

希望する進路として、教師になりたいという思いがありまして、英語を言語学的に学びながら教職免許が取れる人社を選びました。松林先生は中学・高校の教師のご経験もあり英語教育に精通していらっしゃるので、特に私のように英語教師を目指す学生には的確なアドバイスをしてくださいます。先生は授業で小話をはさむなど、親しみやすい人柄だなと思いますし、友情に厚く人間的にも尊敬できる方です。今私は、英語教育の現場において、いかに理解しやすい教え方ができるか、ネイティブとコミュニケーションをとれるまでの力を身に付けさせる指導ができるかといった方法論を研究しておりますので、将来は学校で実践し、松林先生のように生徒に憧れられる教師になれればと思います。

教育方法は時代によって変化していきますが、その中で何が効果的なのか、どう改善していったら良いのかを追求し続けたいですね。

4年Cさん

高校が英語など国際教育に力を入れる学校だったので、大学でも引き続き国際文化・言語学について学びたいと思いました。実際勉強をする中で感じるのは、言語学というジャンルは形態論や音韻論など幅広い知識を必要とする学問であるため、まず言葉の認識を広げた上で、徐々に自分のテーマを絞り目標を持って研究することが大事だということです。それから、外国語について考えるには母国語に関しての理解を深めることも必要だと思います。地道な作業もあるのですが、いろいろな文献をあたっているうちに、ある日突然それまで積み上げてきた知識がつながる瞬間が出てきて面白いですよ。

私の研究テーマは「未知語」で、知らない単語を文脈等から推測する方法について考えるというものです。分からないことがあってもすぐ調べるのではなく、自分の頭で考えることが大事だと思いますので、これからもこの姿勢を大切にしていきたいと思います。


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